高校生物の問題演習
令和6年7月8日
ラクトースオペロン
※九州大学の入試問題です。
次の文章を読み、以下の問いに答えなさい。
大腸菌は、培地に炭素栄養源としてラクトースだけが含まれていると、ラクトースの代謝に関わる3種類の酵素の合成を開始する。これら3種類の酵素をコードする遺伝子である$lacZ$と$lacY$と$lacA$は、この順番で大腸菌ゲノム上に並んでおり、1つの$lacZYA$mRNAとして転写される。このように、機能的に関連して一緒に転写される遺伝子群を〔 ア 〕と呼ぶ。
$lacZYA$mRNAの発現は、転写開始のレベルで調節されている。$lacZ$遺伝子の上流には、〔 イ 〕が結合して転写を開始する〔 ウ 〕という領域と〔 エ 〕が結合して転写を抑制する〔 オ 〕という領域が存在する。ラクトースに由来する誘導物質が〔 エ 〕に結合すると、〔 エ 〕が〔 オ 〕から離れて、〔 イ 〕による$lacZYA$mRNAの転写が始まる。
こうして合成される3種類の酵素のうち、$lacZ$遺伝子がコードするβ-ガラクトシダーゼは、ラクトースをグルコースとガラクトースに分解する活性を持つ。
上に述べたラクトース代謝酵素の誘導現象に関して、以下に述べる3つの実験を行った。
問1.文章中の〔 ア 〕~〔 オ 〕に入る適切な語句を記入しなさい。
〔実験1〕
野生株の大腸菌にラクトースと類似した構造を持つ人工誘導物質Xを添加すると、それまで検出限界以下であったβ-ガラクトシダーゼの活性が検出されるようになる。野生株を変異原(突然変異を誘発する化学物質)で処理した細胞集団の中から、Xを添加する前から高いβ-ガラクトシダーゼ活性を示す変異株AとBが単離された。これらの変異株にXを添加しても、β-ガラクトシダーゼ活性がさらに高まることはなかった。
〔実験2〕
野生株および変異株AとBに、〔 エ 〕を発現するプラスミドを導入した。その結果、変異株Aのβ-ガラクトシダーゼ活性は野生株と同様にXの添加によって初めて検出されるようになった。一方、変異株Bのβ-ガラクトシダーゼ活性は、Xの添加の有無に関わらず高いままであった。
〔実験3〕
野生株に由来する〔 ウ 〕と〔 オ 〕の下流に、オワンクラゲの緑色蛍光タンパク質遺伝子をつないだプラスミドを構築した。このプラスミドを野生株に導入したところ、Xを添加しない場合には緑色蛍光は観察されなかったが、Xを添加すると緑色蛍光が観察されるようになった。そこでこのプラスミドを変異株AとBにも導入して、Xを添加しない場合と添加した場合で緑色蛍光の変化を観察した。
以上の3つの実験の結果をまとめると表1のようになった。-はβ-ガラクトシダーゼ活性あるいは緑色蛍光が検出されなかったことを、+はβ-ガラクトシダーゼ活性あるいは緑色蛍光が検出されたことを意味している。
問2.変異株Aにおいて、突然変異がゲノム中の一ヶ所に起こったものとすると、その影響で機能を失ったのは、問1で答えた〔 イ 〕~〔 オ 〕のうちどれであると考えられるか。イ~オから1つを選んで答えなさい。
問3.実験3における変異株Aの結果を予想して、表1の〔 カ 〕と〔 キ 〕に当てはまる符号を-または+で答えなさい。
問4.変異株Bにおいて、突然変異がゲノム中の一ヶ所に起こったものとすると、その影響で機能を失ったのは、問1で答えた〔 イ 〕~〔 オ 〕のうちどれであると考えられるか。イ~オから1つを選んで答えなさい。
問5.実験3における変異株Bの結果を予想して、表1の〔 ク 〕と〔 ケ 〕に当てはまる符号を-または+で答えなさい。
令和6年4月7日
種の多様性と中規模撹乱説
※大阪市立大学の入試問題です。
水域生態系の無機塩類に関する次の文章を読み、問1~問4に答えよ。
近年、生活排水や産業排水の流入により、①河川や湖沼の水中に含まれる硝酸塩などの無機塩類の濃度が上昇することが問題になっている。河川や湖沼の底に固着して光合成を行う②藻類は、生産者であると同時に、水中の硝酸イオンを吸収することで、無機塩類の濃度を減らす水質浄化機能も果たしている。しかし、藻類や水生植物が吸収しきれないほど大量の無機塩類が湖沼に流入すると、水中の無機塩類濃度が異常に高くなり、アオコの発生につながることがある。
問1 下線部①に関して、このような現象は何とよばれるか、答えよ。
問2 下線部②に関して、藻類と同じ原生生物に分類される生物を下からすべて選び、記号で答えよ。(複数の記号を答える場合、記号と記号の間には何も入力せず、アルファベット順に半角の小文字のみ入力すること。)
(a) テングサ (b) ゼニゴケ
(c) ゾウリムシ (d) アメーバ
(e) 大腸菌 (f) 超好熱菌
(g) シャジクモ (h) ネンジュモ
問3 藻類の水質浄化機能を調べるため、以下の実験1を行った。(1)と(2)の問いに答えよ。
実験1
図に示すように、河川環境に似せた水槽を9つ用意し、水槽内の流速を均一にして、水槽の底面で藻類を培養した。8つの水槽には、種A~種Hの8種の藻類を別々に入れ、残り1つの水槽には、8種すべてを一緒に入れて培養した。すべての種の個体数が安定するまで培養したところ、8種一緒に入れた水槽では③1種のみが底面全体を優占して、他の種の個体はほとんどいなくなってしまった。その後、藻類による硝酸イオンの吸収速度を水槽ごとに測定したところ、表1の結果が得られた。
1種ずつ別々に培養した水槽 |
8種一緒に培養した水槽の値 |
|
全水槽の平均値 |
吸収速度が最も大きかった水槽の値 |
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0.3 |
0.6 |
0.6 |
(1)下線部③に関して、この結果はどのような生物間相互作用によって生じたと考えられるか、相互作用の名称を答えよ。
(2)1種ずつ増殖させた水槽の吸収速度の最大値と8種一緒に増殖させた水槽の吸収速度が同じだった理由を答えよ。
問4 実験1と同じ水槽を用いて、以下の実験2を行った。(1)と(2)の問いに答えよ。
実験2
実験に用いた藻類は、種によって生育に適した流速とかく乱後の回復速度が異なっていることがわかっている。そこで、水槽の底面に起伏をつくり、水槽内に流速の速い場所と遅い場所をつくった。また、④毎週1回、水槽の底面から無作為に複数の範囲を選び、その範囲にある藻類をすべてはぎ取るかく乱処理を行った。
実験1と同様に、8つの水槽では1種ずつ別々に、残り1つの水槽では8種一緒に培養した。すべての種の個体数が安定するまで培養したところ、8種一緒に入れた水槽では、8種すべてが共存していた。その後、藻類による硝酸イオンの吸収速度を測定したところ、表2の結果が得られた。
1種ずつ別々に培養した水槽 |
8種一緒に培養した水槽の値 |
|
全水槽の平均値 |
吸収速度が最も大きかった水槽の値 |
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0.1 |
0.3 |
0.5 |
(1)下線部④に関して、かく乱処理をやめると、8種一緒に培養した水槽で共存する種数が減った。なぜ共存種数が減ったのか、答えよ。
(2)1種ずつ培養した水槽の硝酸イオン吸収速度の最大値よりも8種一緒に培養した水槽の吸収速度の方が大きかった理由を答えよ。なお、単位生物量あたりの吸収速度は、種によって決まっていて、条件が変わっても変化しないものとする。
令和5年12月30日
光合成速度
※鹿児島大学の入試問題です。(答えに単位が必要な場合は、数値は半角で、単位は全角で入力すること。)
次の文章を読み、問1~問2に答えなさい。
植物と光合成の関係について答えなさい。
問1 下の図は、二酸化炭素濃度と温度の条件を一定に保ったうえで、2種類の植物に異なる強さの光を3時間照射した時に吸収される二酸化炭素の量を示したものである。両植物とも呼吸量は光の強さに関係なく一定であるとして以下の問いに答えなさい。
(1)A植物とB植物の補償点はそれぞれいくらか、単位をつけて答えなさい。
(2)A植物とB植物の光飽和点はそれぞれいくらか、単位をつけて答えなさい。
(3)A植物とB植物で光合成速度が同じになるのは、光の強さがいくらの時か答えなさい。
(4)A植物とB植物を1日に12時間だけ光を照射し、12時間は光を照射しない条件に置いた場合に1日当たりの呼吸量と光合成量が同じになるのは光の強さが何ルクスの時か、A植物およびB植物についてそれぞれ答えなさい。
問2 一般に補償点や光飽和点は、①強い光のもとで生育する植物では高く、②弱い光でも生育する植物では低い。下線①および下線②の性質を持つ植物を何というか。それぞれに該当する名称を書きなさい。
令和5年9月24日
興奮性シナプスと抑制性シナプス
※北海道大学の入試問題を参考に作られています。
※入力は次の指示にしたがってください。
- 入力は、ひらがな、カタカナ、漢字は全角で、それ以外はすべて半角で入力すること。
- 記号を答える問題では、半角数字のみ入力すること。
- イオン式を入力する場合は、たとえば$\ce{Cl-}$ならCl-、$\ce{Cu^{2+}}$ならCu2+のように、右上についているものはそのまま元素記号の後ろに入力すること。
次のⅠ~Ⅲの文章を読み、それぞれの問に答えよ。
Ⅰ 神経細胞の軸索の末端は神経終末とよばれる。神経終末はわずかなすき間をおいて、他の神経細胞の樹状突起や細胞体などに接している。この部分をシナプスという。活動電位が神経終末に到達すると、電位依存性の (ア) チャネルが開き、 (ア) が神経終末に流入し、 (イ) が神経終末の膜に融合する。これにより (イ) から神経伝達物質がシナプス間隙に放出される。興奮性の神経伝達物質としてグルタミン酸などがあり、抑制性の神経伝達物質としてγ-アミノ酪酸(GABA)などがある。また快感などの報酬系に関わる神経回路では、主要な神経伝達物質として (ウ) がある。シナプス前細胞による神経伝達物質の放出の結果、シナプス後細胞に生じる変化をシナプス後電位とよぶ。たとえば、 (エ) チャネルが開くと脱分極性の興奮性シナプス後電位が生じ、クロライドイオン($\ce{Cl-}$)チャネルが開くと過分極性の抑制性シナプス後電位が生じる。興奮性シナプス後電位を生じさせるシナプスを興奮性シナプス,抑制性シナプス後電位を生じさせるシナプスを抑制性シナプスという。
問1 文中の (ア) ~ (エ) に適切な語句を入れよ。(イオンを答える場合はイオン名、イオン式どちらの入力でもかまわない。)
Ⅱ 脳内では複数のニューロンがシナプスを介して結合し、神経回路をつくっている。興奮性と抑制性のシナプス結合をもつ神経回路の例を以下の図1A~図1Cとして示す。これらの神経回路のシナプス結合は、次の2点の性質をもつとする。
(i) 1つの興奮性シナプスからの興奮性シナプス後電位によってシナプス後細胞で活動電位が生じる。
(ii) 抑制性シナプス後電位は興奮性シナプス後電位をある一定時間打ち消すことができる。
図1Aの入力刺激とニューロンn1~n4の活動電位の発生パターンが図2Aのようになった。横軸が時間、縦軸が活動電位の大きさを表している。
問2 図1Bの入力刺激とニューロンn1とn3の活動電位の発生パターンが図2Bのようになるとき、図1Bのニューロンn2とn4の活動電位の発生パターンはどのようになるか。図2Bの①~⑤からそれぞれ選び、数字で答えよ。
問3 図1Cの入力刺激とニューロンn1とn4の活動電位の発生パターンが図2Cのようになるとき、図1Cのニューロンn2とn3の活動電位の発生パターンはどのようになるか。図2Cの⑥~⑩からそれぞれ選び、数字で答えよ。
Ⅲ アフリカツメガエルの幼生は、左右の体側筋を交互に収縮することによって水中で遊泳(スイミング)行動する。アフリカツメガエル幼生の遊泳軌跡(高速度ビデオ撮影画像)を図3Aとして示し、左体側筋(図3Aの矢印部)の収縮変化の一部を図3Bとして示す。図3Cに簡略化して示した神経回路によって、このようなリズミカルな行動パターンがつくられると考えられており、これら複数のニューロンの遊泳中の活動電位の発生パターンの一部を図3Dとして示す。ただし、図3Cの興奮性と抑制性シナプスの性質は前述のⅡで示した(i)と(ii)の性質をもつとする。また、ニューロンn1とn4は活動電位を連続して4回まで発生することができるが、その最後の活動電位の発生後20ミリ秒間は一時的に興奮できない性質をもつとする。
問4 図3Dのニューロンn1,n2,n4,n5の活動電位の発生パターンの続きを解答欄の太線枠内部に記入せよ。(解答するときは、このページを印刷してそこに書き込んでください。)
問5 図3Dで示したように入力刺激が5ミリ秒間隔で繰り返して入力されるとき、図3Bの時間$x$は何ミリ秒になるか、答えよ。
令和5年6月25日
体細胞分裂と細胞周期
※東邦大学の入試問題です。
細胞周期を観察するために、非同調的に分裂増殖しており、ある決まった長さの細胞周期をもつヒトの培養細胞を準備し、一定時間培養した。はじめに、培養開始後の細胞数の変化を顕微鏡で計測したところ、次の図1のような結果が得られた。次に、培養開始後60時間の細胞を用いて、細胞1個あたりのDNAの相対量を実際に測定したところ、次の図2のようになった。このグラフを解析した結果、細胞1個あたりのDNAの相対量がおおよそ2であるCの部分の細胞数は、解析した全細胞数の25%であった。
ブロモデオキシウリジン(BrdU)は、チミンと構造がよく似た物質であり、培養液中にBrdUを添加しておくことで、DNA合成の過程で新しくつくられるDNAにBrdUが取り込まれ、特殊な色素で染色すると顕微鏡で観察できるようになる。培養開始後60時間の細胞の培養液中にBrdUを添加し、10分後に再びBrdUを含まない新しい培養液に交換した後、顕微鏡で一部の細胞を観察した。なお、BrdUを添加していた時間は細胞周期の各時期に比較して十分短かったものとする。その結果、20%の細胞のDNAにBrdUが取り込まれていた。次に、一定時間おきに一部の細胞を取り出して顕微鏡で観察した。その結果、 ア 期にBrdUを取り込んだ細胞がM期に入ったようすが、4時間後にはじめて観察された。
問1 細胞分裂中に観察された次の①~⑥の現象のうち、分裂期の前期,中期,後期および終期に観察されるものとして適当なものをそれぞれすべて選べ。(半角数字で入力し、2つ以上の数字を入力する場合は数字と数字の間に半角のコンマ(,)を入力すること。)
① 紡錘体の形成が始まった。
② 核膜や核小体が再び現れた。
③ 染色体が紡錘体の中央面である赤道面に並んだ。
④ 分かれた染色体が、細胞の両極に向かって移動した。
⑤ 細胞の赤道面の部分がくびれ、細胞が2つに分かれた。
⑥ ひも状の染色体が現れ、やがて核膜と核小体が見えなくなった。
問2 図1の結果から、この培養条件における細胞周期のおおよその平均時間を答えよ。(半角数字で入力すること。)
問3 図2について、G1期,S期,G2期,M期の大部分の細胞が、それぞれA,B,Cのどの部分に含まれるかを答えよ。(半角アルファベットの大文字で入力すること。)
問4 文中の下線部および空欄 ア について、次の(1)~(3)に答えよ。
(1)文中の空欄 ア にあてはまる最も適当な語を答えよ。(アルファベットの大文字は半角で入力すること。)
(2)本文および図1,2を参考にしてG2期とM期を合わせた時間を求めよ。(半角数字で入力すること。)
(3)観察した細胞が、それぞれG1期,S期,M期に要する時間を求めよ。(半角数字で入力すること。)