この問題でおさえておきたいこと
撹乱が中規模で一定頻度で起こるほうが生物多様性を維持できることを、種間競争と関係させて理解しよう!
解答
問1
富栄養化
問2
(a),(c),(d),(g)
問3
(1)種間競争
(2)(例)8種一緒に増殖させた水槽の底面全体を優占した種が、硝酸イオンの吸収速度が一番大きい種であり、それが種間競争によって勝ち残ったから。
問4
(1)(例)定期的に撹乱を起こすことで種間競争には弱いが回復は速い種も共存することができたが、それがなくなることにより、種間競争が強まって、種間競争に弱い種が生き残りにくくなったため。
(2)(例)流速が異なる部分があるため、1つずつ増殖させた場合は、底面の一部でしか生育していないその種しか硝酸イオンを吸収するだけなのに対し、8種一緒に増殖させた場合は他の種が生育していない底面の部分でもそれぞれが生育することで共存し、8種すべてが硝酸イオンを吸収したため。
重要事項のまとめ
・生物多様性とは
生物多様性には3つの側面がある。
①生態系の多様性
森林、草原、湿原など、さまざまな形の生態系がある。
②種の多様性
生態系の中には、さまざまな生物が生息し、相互作用している。
③遺伝子の多様性
同じ種の中でも、同じ遺伝子を持っているわけではなく、それぞれがさまざまな遺伝子を持っている。
草原の中に大きな道路ができるなど個体群に対して分断化がされると、分けられた一つ一つの個体群(局所個体群)は孤立化していき、その中の個体数は減る。
すると近親交配をする必要性が生じるが、有害遺伝子の割合が上がってしまい、出生率低下や脂肪率増加につながる。これを近交弱勢という。
近交弱勢によって個体数はさらに減るという悪循環におちいってしまう。この現象を絶滅の渦という。
・撹乱
火山噴火や河川氾濫のような自然災害など、生態系を破壊して変化させることを撹乱という。
撹乱が大きすぎると生物種は減少してしまうが、撹乱が少なすぎると種間競争が激しくなってしまい、結果として生物種は減少してしまう。
このため撹乱は中規模程度であるほうが、生物種の多様性が維持できると考えられている。この考えを中規模撹乱説(中規模撹乱仮説)という。
・人間による撹乱
森林伐採や乱獲など人間の手で引き起こされる撹乱を人為撹乱という。
人為撹乱の場合、生態系の回復力を超えることがあり、その場合は生物種の絶滅につながることもある。
しかし、森林伐採が適度に行われている里山では、高い生物多様性が維持できている場合もある。
(中規模撹乱説(中規模撹乱仮説)のとおりとなっている)
解説
問1
富栄養化によってプランクトンなどが異常に多く増殖し、海の表面が赤褐色に変化してしまう現象が赤潮です。
問2
原生生物とは、真核生物のうち、単細胞生物と体の構造が単純な多細胞生物のことを指します。問題文に「藻類と同じ」とも書かれていましたので、テングサやシャジクモも選びやすかったのではないかと思われます。
ちなみに、ゼニゴケは植物(コケ植物)、大腸菌や超好熱菌、ネンジュモ(シアノバクテリアの一種)は原核生物です。
問3
(1)単一の環境で、撹乱がほぼない環境下では、ニッチ(生態的地位)が近い種はあまり共存することができません。それは種間競争がはたらいて、種間競争に強い種が、他の種を排除していくことで勝ち残っていくからです。
(2)実験1の環境では、流速が一定で水槽にもとくに細工がされていません。さらに、撹乱が起こることもありませんので、さっきの(1)で考えたとおり、この環境では種間競争が起こることとなります。8種一緒に増殖させた水槽では、この種間競争が起こったことをまずおさえる必要がありますね。
さらに、1種ずつ増殖させた水槽の吸収速度の最大値と8種一緒に増殖させた水槽の吸収速度が同じだったということは、
- 問題文にも記載があるが、8種一緒に増殖させた水槽で生息している種は1種類しかいない(2種以上の種がいるのであれば、8種一緒に増殖させた水槽では吸収速度はもっと大きくなっているはず)
- 硝酸イオンの吸収速度が最も大きい種が、8種一緒に増殖させた水槽で生息している種である
ということになります。つまり、さっきの(1)で考えた種間競争に最も強い種とは、ここでは硝酸イオンの吸収速度が最も大きい種だったということです。このことを解答に盛り込むことが必要です。
解答のチェックポイント
- 8種一緒に増殖させた水槽の中で種間競争が起こったことにふれているか
- 種間競争によって、1種類だけが勝ち残った(ほかの種類は排除されてしまった)という結果を述べているか
- 種間競争に勝ったのは、硝酸イオンの吸収速度が最も大きい種であることを述べているか
問4
(1)多様な環境で、撹乱が適度な頻度で起こる環境では、ニッチ(生態的地位)が近い種でも共存することができます。このような環境下だと、種間競争には弱いけれども撹乱後の回復が速いという種も生息しやすくなるためです。
実験2については、いろいろな流速の場所ができたということと、週1回のはぎ取りという撹乱があったことのおかげで、8種が一緒に共存することができたわけです。さっきの「重要事項のまとめ」にあった中規模撹乱説を裏付ける結果ですね。
ところが、撹乱をやめてしまうと、「重要事項のまとめ」にもあったとおり、種間競争が強まっていくことになってしまうので、種間競争には弱いという種がどんどん排除されていくこととなるので、共存する種数が減ってしまうのです。
解答のチェックポイント
- 理由として種間競争に強い種が他の種を排除していくということを述べているか
- その理由の背景として、週1回のはぎ取りがなくなったことで、水槽内で種間競争が始まっていったということを述べているか
(2)実験1の環境とはちがい、実験2の環境では、流速が場所によって異なるので、種によって生育に適している場所と適していない場所ができます。
よって、実験2の水槽においては、生育できるのは水槽の一部の底面だけということになってしまいます。さらに、1種ずつ培養した場合なら、硝酸イオンを吸収できるのは限られた場所で生育しているその1種だけということとなります。
一方、8種一緒に培養すると、それぞれの種が自分の生育に適した場所で生育できるので、いろいろな場所にいろいろな種が生育するようになります。1種ずつ培養する場合と比べてより多くの場所でより多くの種が硝酸イオンを吸収できたので、8種一緒に培養したほうが吸収速度が大きくなったというわけです。
解答のチェックポイント
- 1種ずつ培養した水槽では、水槽の底面の一部しか生育できず、硝酸イオンを吸収できるのがその1種だけであることにふれているか
- 自分の生育に適した流速の場所が一部だけになったことを底面の一部しか生育できない理由としてふれているか
- 8種一緒に培養した水槽では、それぞれの種が自分の生育に適した場所で生育していることを述べているか
- その結果として、1種ずつ培養したときより多くの面積に、より多くの種が生育できていることを述べているか