この問題でおさえておきたいこと
神経細胞間で興奮が伝わるしくみを、神経伝達物質と何のチャネルが関係するかを中心におさえよう!
解答
問1
(ア) …カルシウムイオン($\ce{Ca^{2+}}$)
(イ) …シナプス小胞
(ウ) …ドーパミン
(エ) …ナトリウムイオン($\ce{Na+}$)
問2
n2…⑤ n4…④
問3
n2…⑧ n3…⑨
問4
問5
50ミリ秒
重要事項のまとめ
・興奮の伝達
神経細胞間で興奮が伝わることを伝達という。
伝達は興奮を送る神経細胞(シナプス前細胞)の末端から、次の神経細胞(シナプス後細胞)にある細胞体の先端(樹状突起)へと一方向になされる。
シナプス前細胞の末端と、シナプス後細胞の樹状突起との間にあるすき間をシナプス間隙といい、ここで興奮の伝達がなされる。
・伝達のしくみ
活動電流がシナプス前細胞の末端に伝わると電位依存性カルシウムチャネルが開き、カルシウムイオンが細胞内に流入する。
↓
流入したカルシウムイオンが細胞内にあるシナプス小胞を刺激する。
↓
シナプス小胞は神経細胞末端の細胞膜と融合し、シナプス間隙に神経伝達物質を放出する。
↓
神経伝達物質がシナプス後細胞の樹状突起にある受容体に結合すると、シナプス後細胞に興奮を引き起こす
・興奮性シナプスと抑制性シナプス
アセチルコリンやグルタミン酸などのような興奮性の神経伝達物質が放出されるシナプスが興奮性シナプスである。
これが放出されてシナプス後細胞の受容体に結合すると、ナトリウムチャネルが開いてナトリウムイオンが細胞内に流入する。
ナトリウムイオンが流入すると活動電位が生じる。この電位を興奮性シナプス後電位という。
γ-アミノ酪酸(GABA)やグリシンなどのような神経伝達物質が放出されるシナプスが抑制性シナプスである。
これが放出されてシナプス後細胞の受容体に結合すると、電位依存性塩素チャネルが開いて塩化物イオンが細胞内に流入する。
塩化物イオンが流入すると電位がさらに負(マイナス)になり、いくら神経細胞を刺激しても興奮が起こりづらくなる。この電位を抑制性シナプス後電位という。
解説
問1 ほとんどは「重要事項のまとめ」を参考にすると解くことができると思われます。報酬系に関わる神経回路ではドーパミンという神経伝達物質が関係していることもおさえておきましょう。
問2 図1Aの神経回路では、刺激はn1→n2→n3・n4の2つという順に流れますね?それをふまえて図2Aを見ると、活動電位が発生するタイミングがn1とn2、n2とn3(またはn4)で一定のずれがあります。このことより、刺激が次のニューロンに伝達されるまで決まった時間がかかることがわかります。
そして、図2Bの神経回路を見ると、これについても刺激はn1→n2→n3・n4の2つという順に流れます。ということは、n4に刺激が伝達されるタイミングはn3のそれとまったく同じということになります。したがって、n4の活動電位の発生パターンは、n3とまったく同じ形になっている④ということになります。
そして、1回目の活動電位について、n3やn4より少しだけ先にn2で発生するはずですから、n2での発生パターンは①か⑤と考えることができます。
図2Bを見ると、n4とn2は興奮性シナプスでつながれています。なので、n2は途中からn4とn1両方からの刺激を受けて活動電位が発生することとなります(n4→n2→n4という循環ができます)。①では2回目の活動電位がn3やn4と同時に発生しています。これが不適ですので、n2での発生パターンは⑤といえます。
問3 図2Cの神経回路でも刺激はn1→n2→n3・n4の2つと流れていくことは同じです。ということは、n3に刺激が伝達されるタイミングはn4とまったく同じはずですから、n3の活動電位の発生パターンはn4と同じ形になっている⑨です。
n3やn4に活動電位を発生させるには、n2で少しだけ先に活動電位が発生しないといけません。よって、n3やn4で発生している活動電位3回より少しだけ先に3回活動電位が発生している⑧が、n2の発生パターンということになります。
ちなみに、n1では活動電位が多く発生しているのに、次の段階のn2ではそれが少ない理由はわかりますでしょうか?図2Cでは、n4とn2の間にあるのは抑制性シナプスです。よって、n2→n4と刺激が流れた後、抑制性シナプス後電位がn2で発生し、n1から刺激を受けても一定時間興奮が起こりづらくなったためですね。
問4 図3Cより、n1→n2・n3の2つを通る経路と、n4→n5・n6の2つを通る経路があることがわかります。そして、n3からの刺激によって左体側筋が、n6からの刺激によって右体側筋が刺激されることとなり、問題文にあるとおり、体側筋は交互に収縮します。以上をふまえて正解の図を使って考えてみましょう。
まず問題文より、最後の活動電位の発生後20ミリ秒間は興奮しないので、n1とn2について①・②・③・④の部分は空白になります。体側筋は交互に収縮するので、今度はn4で活動電位が、それより少し後にn5で活動電位が、それぞれn1・n2と同じく4回発生するはずです。n4とn5はその後20ミリ秒間は興奮しません。
体側筋は交互に収縮するので、今度はn1が興奮することとなりますが、n4の最初の活動電位は、n1の最後の活動電位より5ミリ秒の空白後に発生しています。なので、n1の活動電位も、n4の最後の活動電位より5ミリ秒の空白後に発生し、それより少し後にn2で活動電位が発生します。回数はここでも各4回でしょう。
そうなると、図の赤丸で示された空白の時間ができます。図3Cを見ると、n1はn5と抑制性シナプスでつながっています。つまり、n5によって抑制性シナプス後電位がn1で発生したため、興奮が起こりづらくなっていた影響が出ていたわけです(同じ赤丸がつけられたn5の抑制性シナプスによる影響ですね)。
同じように、n4はn2と抑制性シナプスでつながっています。n1の赤丸と同じように、n4でも青丸で示したように抑制性シナプスによって興奮が起こりづらくなっている時間があります。n1で4回活動電位が発生した後すぐにn4の興奮が起こらなかったのは、これが理由です。
問5 左体側筋が収縮するにはn3が興奮する必要があります。ところが、図3Dにはn3がいつ興奮するかというのが示されていません。そのため、n3と同時に興奮するn2がいつ興奮するかということを参考に考えることとなります。
さっきの問4の解説にある図を使って考えると、最初の4回の活動電位が起きて、時間をおいて再び4回の活動電位が起きています。この4回の活動電位があって左体側筋が収縮しますから、図の黒い■の間隔が求める時間といえます。1つ目の■から5×10 = 50ミリ秒後に2つ目の■があるので、これが$x$の値ですね。