高校生物の問題演習
令和5年3月19日
中胚葉誘導
※名古屋大学の入試問題を参考に作られています。
次の文章を読み、以下の設問に答えよ。
多くの動物のからだは、前後・背腹・左右が区別できる。前後軸・背腹軸・左右軸といった体軸は胚発生の過程で決まる。これまで、カエルやイモリなどの両生類の胚を用いた研究から、これら脊椎動物の背腹軸・前後軸は、胚発生初期に決まることがわかっている。
カエルの未受精卵は、植物極側に卵黄を多く含むが、動物極-植物極を結ぶ軸に沿って回転相称である。精子は動物半球から進入する。これを引き金として、卵細胞の表面に近い部分が、その内側の細胞質に対して約30°回転する(図1)。これを表層回転という。これにより、精子進入点の反対側では、色素が少ない植物半球表層が、黒い色素を多く含む動物半球に動き、動物半球の細胞質が (ア) として見えるようになる。 (ア) が見られる側が、将来のからだの (イ) 側となり、初期原腸胚において細胞が陥入して (ウ) が形成される。①胞胚期には、表層回転に依存して、精子進入点の反対側の細胞の核にβカテニンというタンパク質が蓄積することが知られている。
約100年前、ドイツの生物学者であるハンス・シュペーマンとその学生であったヒルデ・マンゴールドは、体色の異なる2種類のイモリの胚を用いて、以下の実験を行った(図2)。クシイモリの (ウ) の動物極側の領域(A)を、スジイモリの(A)と反対側の赤道部に移植した場合、移植片は陥入を始め、宿主胚に前後軸を備えたもう一つの胚(二次胚)を生じた。色素の違いから、二次胚がどちらの細胞に由来するかを調べると、図2に示すように、②脊索のすべてと神経管・体節の一部は移植した細胞に由来したが、神経管・体節の一部と腎節・腸管のすべては宿主胚の細胞に由来することから、(A)はこれらの組織を作る能力をもつことが明らかとなった。シュペーマンとマンゴールドは、このような能力をもつ胚の領域を「形成体(オーガナイザー)」と名づけた。
その後1960年代~1970年代に、オランダの生物学者ピーター・ニューコープは、アフリカツメガエルの胚を用いて、形成体の誘導に、胞胚期の細胞間のシグナルの受け渡しが関与することを示した(図3)。初期胞胚の動物極側(B)を切り取り、培養すると外胚葉に由来する (エ) に分化した。植物極側(C)を切り取り培養すると (オ) 胚葉に分化した。(B)と(C)を組み合わせて培養すると、本来 (エ) に分化すべき(B)が (カ) 胚葉組織に分化した。さらに、③精子進入点とは反対側の植物極側の組織(D)を(B)と組み合わせて培養すると、(B)が形成体を含む (イ) 側 (カ) 胚葉に分化した。これらのことから、形成体の誘導には、植物極側の組織から産生される分泌タンパク質が関与すると考えられた。
設問(1):空欄 (ア) ~ (カ) に適切な用語を記入せよ。
設問(2):下線部①について、受精直後から胞胚期まで、βカテニンのmRNAは胚の中で一様に分布していた。表層回転により、精子進入点の反対側の細胞の核にβカテニンタンパク質が蓄積するメカニズムを考えて、述べよ。
設問(3):下線部②および図2の脊索,神経管,体節,腎節,腸管,神経堤細胞,側板は、さまざまな細胞に分化する。これらのうち、血管,脊椎,四肢の筋肉,色素細胞に分化するのはそれぞれどれか、記入せよ。
設問(4):βカテニンの発現を阻害したアフリカツメガエル胚においては、形成体は誘導されない。その胚を用いて、下線部③の実験を行ったところ、(B)から形成体は誘導されなかった。植物極側の組織(D)から産生される分泌タンパク質Yが形成体の誘導に関わることがわかっている。分泌タンパク質Yは受精卵には存在していないと仮定した場合、βカテニンとタンパク質Yの関係を考えて、述べよ。
令和4年12月10日
血糖量の調節
※京都府立大学の入試問題を参考に作られています。
ホルモンを分泌する器官を内分泌腺という。ヒトの内分泌腺には、甲状腺,副腎などがあり、個体の恒常性(ホメオスタシス)の維持に重要な役割をしている。一般にホルモンはそれぞれ特定の標的細胞に作用する。標的細胞の細胞膜や細胞内には、特定のホルモンとだけ結合する受容体が存在する。
ホルモンによってコントロールされる重要な体内環境に、血糖量(血糖濃度)がある。血糖量は、血液中のグルコース濃度のことで、ほぼ一定に保たれている。生活習慣や遺伝的要因等さまざまな原因で、血糖量が異常に増加した状態が続く病気を糖尿病とよぶ。
問1 下線部の内分泌腺の構造を、外分泌腺と比較して10字以内で説明せよ。
問2 (1)食後、および、(2)空腹時に血糖量を一定に保つしくみを、以下の語をすべて用いてそれぞれ100字以内で説明せよ。
〔インスリン,グルカゴン,すい臓,肝臓,筋肉,副腎,グリコーゲン,交感神経〕
問3 図1のグラフは健常人1名,糖尿病患者2名の食事摂取後の血糖量とインスリン濃度の変化を示している。
(1)健常人のグラフはA,B,Cのうちどれか。(半角のアルファベット大文字で入力すること。)
(2)糖尿病患者2名は、それぞれ発症の機序が異なっている。うち1名は、細胞のインスリン受容やその後のシグナル伝達経路に問題はなく、ほかの1名はそれがうまくはたらいていないとする。シグナル伝達経路がはたらいていないと考えられるものはA,B,Cのうちどれか。(半角のアルファベット大文字で入力すること。)
(3)インスリンを投与することが特に有効な患者はA,B,Cのうちどれか。(半角のアルファベット大文字で入力すること。)
令和4年9月19日
進化のしくみ
※( )内の年度の大学入学共通テスト・センター試験の問題を参考に作られています。(答えはすべて半角数字で入力すること)
次の問いA(問1・問2),B(問3),C(問4・問5)に答えよ。
A ヒトの近縁種の系統関係を調べるため、チンパンジー,ゴリラ,オランウータン,およびニホンザルのそれぞれについて、遺伝子Aからつくられるタンパク質Aのアミノ酸配列を調べたところ、互いに異なっているアミノ酸の割合は、表1のとおりであった。
(2021(令和3))
チンパンジー |
ゴリラ |
オランウータン |
|
ゴリラ | 0.90% |
― |
― |
オランウータン | 1.93% |
1.77% |
― |
ニホンザル | 4.90% |
4.83% |
4.85% |
問1 表1の結果から得られる系統樹として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
問2 チンパンジーの祖先とオランウータンの祖先が分岐した年代が1300万年前,ヒトの祖先とチンパンジーの祖先が分岐した年代が600万年前とすると、分子時計の考え方により、表1を用いてヒト―チンパンジー間のタンパク質Aにおけるアミノ酸配列の違いを予測できる。ところが、タンパク質Aにおけるヒト―チンパンジー間のアミノ酸配列の違いを実際に調べた値は、分子時計の考え方による予測値よりも小さかった。次の数値ⓔ~ⓖのうち、分子時計の考え方による予測値はどれか。また、後の記述Ⅰ~Ⅲのうち、実際に調べた値が予測値よりも小さくなった原因に関する考察として適当なものはどれか。その組合せとして最も適当なものを、後の①~⑨のうちから一つ選べ。
ⓔ 0.42% ⓕ 0.89% ⓖ 4.18%
Ⅰ 遺伝的浮動により、ヒトの集団内で、突然変異によって遺伝子Aに生じた新たな対立遺伝子の頻度が上がったため。
Ⅱ ヒトにおいて生存のためのタンパク質Aの重要度が上がり、タンパク質Aの機能に重要なアミノ酸の数が増えたことで、突然変異によりタンパク質Aの機能を損ないやすくなったため。
Ⅲ 医療の発達により、ヒトでは突然変異によってタンパク質Aの機能を損なっても、生存に影響しにくくなったため。
① ⓔ,Ⅰ ② ⓔ,Ⅱ ③ ⓔ,Ⅲ
④ ⓕ,Ⅰ ⑤ ⓕ,Ⅱ ⑥ ⓕ,Ⅲ
⑦ ⓖ,Ⅰ ⑧ ⓖ,Ⅱ ⑨ ⓖ,Ⅲ
B 生物は自然環境の影響を受けつつ多様な進化を遂げてきた。このうち、生物が様々な環境の下で異なる形態や機能をもつようになり、共通祖先から短期間のうちに多様な種に分化することを ア という。例えば、ガラパゴス諸島に生息するフィンチは、それぞれの餌環境に応じてくちばしの形を様々に変化させてきた。
(2016(平成28))
問3 上の文章中の ア に入る語として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
① 順応 ② 共進化
③ 分子進化
④ 適応放散
⑤ 競争的排除(競争排除)
C 特定の遺伝子のDNAの塩基配列を調べると、種間で違いがみられる。この違いは、共通の祖先から分岐した後に、種ごとに起きた突然変異と遺伝子頻度の変化によるものである。生存や繁殖に有利な突然変異は集団中に広まるが、不利な突然変異は集団から取り除かれる。また、生存や繁殖に影響しない突然変異は、主に ア によって集団中に広まる。このような過程を経て(a)突然変異が蓄積していく。種間でみられる塩基配列の違いの多くは、生存や繁殖に イ 突然変異に由来している。また、種間の塩基配列の違いは、共通の祖先から分岐した後に長い時間が経過しているほど ウ という傾向がある。
(2020(令和2))
問4 上の文章中の ア ~ ウ に入る語句の組合せとして最も適当なものを、次の①~⑧のうちから一つ選べ。
ア |
イ |
ウ |
|
① | 遺伝的浮動 | 影響しない | 大きい |
② | 遺伝的浮動 | 影響しない | 小さい |
③ | 遺伝的浮動 | 有利な | 大きい |
④ | 遺伝的浮動 | 有利な | 小さい |
⑤ | 生殖的隔離(生殖隔離) | 影響しない | 大きい |
⑥ | 生殖的隔離(生殖隔離) | 影響しない | 小さい |
⑦ | 生殖的隔離(生殖隔離) | 有利な | 大きい |
⑧ | 生殖的隔離(生殖隔離) | 有利な | 小さい |
問5 下線部(a)に関連して、遺伝子に生じた塩基置換はアミノ酸配列の変化を起こすもの(以後、非同義置換とよぶ)と、起こさないもの(以後、同義置換とよぶ)に分類することができる。ある遺伝子X~Zについて、それぞれの塩基配列を様々な動物種の間で比較し、非同義置換の率と同義置換の率を計算した結果を、表1に示した。表1のデータに基づき、遺伝子X~Zについて、突然変異が起きた場合に個体の生存や繁殖に有害な作用が起きる確率の大小関係として最も適当なものを、下の①~⑥のうちから一つ選べ。
① X<Y<Z ② X<Z<Y
③ Y<X<Z
④ Y<Z<X
⑤ Z<X<Y ⑥ Z<Y<X
令和4年6月5日
性染色体と遺伝
※岡山大学の入試問題を参考に作られています。
※この問題では潜性遺伝子を「劣性遺伝子」、顕性遺伝子を「優性遺伝子」と記述しています。
ショウジョウバエの交雑実験に関する以下の文章を読み、下の問1~問5に答えよ。
野生型のショウジョウバエは赤眼,茶体色であり、性染色体の構成はヒトと同じ$XY$型(雄ヘテロ型)である。眼色の突然変異形質の白眼と褐色眼はそれぞれ劣性遺伝子$a$と$b$によって、体色の突然変異形質の黒たん体色と黄体色はそれぞれ劣性遺伝子$c$と$d$によって支配されているものとする。これらの変異をもつショウジョウバエを用いて交雑実験(1)~(5)を行い、以下の結果を得た。ただし、交雑には、雑種第一世代($F_1$)を除いてすべて、眼色,体色それぞれの形質について複数の遺伝子の変異をもっていない純系の個体を用いた。
(1) 白眼の雄と褐色眼の雌を交雑したところ、$F_1$はすべて赤眼であった。
(2) 褐色眼の雄と白眼の雌を交雑したところ、$F_1$の雄はすべて白眼、雌はすべて赤眼であった。
(3) 褐色眼・茶体色の雄と赤眼・黒たん体色の雌を交雑した$F_1$はすべて赤眼・茶体色であった。この$F_1$の雌に褐色眼・黒たん体色の雄を交雑したところ、次の世代の表現型は、赤眼・茶体色:赤眼・黒たん体色:褐色眼・茶体色:褐色眼・黒たん体色 = 1:1:1:1の分離比を示した。
(4) 白眼・黒たん体色の雄と褐色眼・黄体色の雌を交雑したところ、$F_1$の雄はすべて赤眼・黄体色、雌はすべて赤眼・茶体色であった。
(5) 褐色眼・黒たん体色の雄と白眼・黄体色の雌を交雑したところ、$F_1$の雄はすべて白眼・黄体色、雌はすべて赤眼・茶体色であった。
問1 野生型(茶体色)の雄に黄体色の雌を交雑したときの$F_1$の体色の表現型を雄,雌それぞれについて答えよ。
問2 上記の交雑実験(1)~(5)の結果から、同じ染色体上に存在していることがわかる劣性遺伝子の組を答えよ。(半角アルファベットで入力すること。)
問3 劣性遺伝子$a$,$b$に対応するそれぞれの優性遺伝子を$A$,$B$とするとき、交雑実験(2)の$F_1$の遺伝子型を雄,雌それぞれについて答えよ。(半角アルファベットのみ利用し、Xaのように右上に遺伝子を書く必要がある場合はX^aのように半角の^の後に右上に書く遺伝子をつづけること。)
問4 交雑実験(2)の$F_1$の雌(赤眼)に対して褐色眼の雄を交雑したとき、次の世代における赤眼:白眼:褐色眼の分離比を答えよ。ただし、白眼と褐色眼の二重変異個体は白眼の形質を示すものとする。(半角数字で入力すること。)
問5 交雑実験(5)によって生まれた$F_1$の雌(赤眼・茶体色)に白眼・茶体色の雄を交雑したとき、次の世代における表現型を雄,雌それぞれについてすべて答えよ。(問題文と同じように、先に眼色、次に体色の順で、そして眼色と体色の間には全角の・を入れた形で入力すること。表現型が複数ある場合は眼色が赤眼→白眼→褐色眼の表現型から順に書き、それぞれの表現型の間を全角の読点(、)でつなぐこと。)
令和4年2月27日
自然浄化
※兵庫医科大学の入試問題を参考に作られています。
図1は、有機物を含む汚水が、ある河川に流れ込んだときの、流入した地点から下流に向けての水質変化を示したものである。多くの有機物が水中に含まれると、光が遮られて水中の光量が減少する。なお、BODは生物学的酸素要求量のことである。図2は、この河川に生息する生物の個体数の変化を、流入した地点から下流に向けて示したものである。
問1 図1のグラフの、(A),(B)が示しているのは何か。次からそれぞれ1つずつ選べ。(半角数字のみ入力すること。)
① $\ce{Ca^2+}$ ② $\ce{H+}$
③ $\ce{NH4+}$ ④ 浮遊物質
⑤ 酸素
問2 生物個体数の変化について、(C)~(F)が示しているのはどれか。次からそれぞれ1つずつ選べ。(半角数字のみ入力すること。)
① 藻類 ② 細菌類
③ イトミミズ ④ 清水性動物
問3 (E)が上流でいったん減少し、下流にいくと増加するのはなぜか、120字以内で説明せよ。
問4 分解できる有機物とは異なり、重金属や分解されにくい化合物が水界に排出され、生体内に取り込まれて高濃度に蓄積されることがある。
(1)この現象を何というか。
(2)この現象を起こす物質が共通してもつ性質を、それぞれ15字以内で2つあげよ。