この問題でおさえておきたいこと
中胚葉誘導の実験結果からどういうことがわかるかを説明できるようにする!
中胚葉誘導のしくみをタンパク質などのはたらきとともにおさえる!
解答
設問(1):
(ア) …灰色三日月環
(イ) …背
(ウ) …原口
(エ) …表皮
(オ) …内
(カ) …中
設問(2):
(例)胚における精子進入点の反対側に移動した物質が、その下流に存在しているβカテニンの分解を抑制し、分解を抑制されたβカテニンがそのまま蓄積していく。
設問(3):
血管…側板
脊椎…体節
四肢の筋肉…体節
色素細胞…神経堤細胞
設問(4):
(例)βカテニンは調節タンパク質として機能し、分泌タンパク質Yの転写を促進し、形成体の誘導に関わらせる。
重要事項のまとめ
・ニューコープの実験
ニューコープという名前の研究者は、イモリの胞胚期の胚を
①:動物極側の領域(アニマルキャップという)
②:植物極側の領域
に分離させ、それぞれを培養させた。
↓
①からは表皮(=外胚葉の組織)が分化、②からは消化管(=内胚葉の組織)が分化した。
つまり、動物極側は外胚葉に、植物極側は内胚葉になる運命にある。
次に、①と②を短時間だけ接触させて、その後分離させて培養させた。
↓
②からは消化管が分化したが、①からは表皮に加えて血球(=中胚葉の組織)が分化した。
ということは、動物極側の領域は植物極側の領域からなんらかの影響を受けて中胚葉に分化した。
=内胚葉の誘導によって外胚葉の一部は中胚葉に分化する。
このような現象を中胚葉誘導という。
・両生類で中胚葉誘導の起こるしくみ
精子が卵に進入すると、卵の表層が約30°回転する表層回転が起こる。これによって、精子進入点の反対側に灰色三日月環ができる。この灰色三日月環が将来の背側となり、原腸胚初期の原口となる。
↓
ディシェベルトタンパク質が表層回転によって灰色三日月環へ移動する。
↓
植物極側にはVegTとVg-1という遺伝子にもとづくタンパク質が合成される。
背側ではディシェベルトタンパク質のはたらきによってβカテニンの濃度が高くなる。
↓
VegTやβカテニンはノーダル遺伝子を発現させる。これにより、ノーダルタンパク質がつくられていき、βカテニンの濃度が高いところほどノーダルタンパク質が多くなるよう、濃度勾配ができる。
↓
このノーダルタンパク質があるところが中胚葉へと分化する。 濃度が高いところが「背側」の中胚葉、低いところが「腹側」の中胚葉へと分化する。
解説
問1
設問(1):「重要事項のまとめ」を参考にすれば、ほとんどの空欄について何があてはまるかがわかると思います。ここでは、補足事項について説明することにします。
(イ) 発生の過程で、前後軸・腹背軸・上下軸が決定されていきますが、動物極と植物極を結ぶ軸は前後軸と一致します。精子が進入し、灰色三日月環が形成されることで腹背軸・上下軸が決定されます。
(カ) 実験により、表皮だけでなく血球も分化したわけなので、(B)は外胚葉と中胚葉に分化したことになります。解答としては2通りが考えられそうですが、問題文に「形成体を含む」という文言があることから、中胚葉という解答になると判断できます。
設問(2):「重要事項のまとめ」にあるとおり、表層回転によりディシェベルトタンパク質が灰色三日月環へ移動します。そして、胞胚期まではβカテニンは胚の中に一様に分布していたと問題文にありますから、βカテニンの蓄積にはディシェベルトタンパク質が関わっていると考えられます。
βカテニンは胞胚期にどんどん分解されていきますが、ディシェベルトタンパク質はその分解を抑制します。そのため、分解されずに残ったβカテニンは転写調節タンパク質としてはたらき、形成体をつくっていくわけです。
この問題では「蓄積するメカニズム」を答えるだけでよいので、「ディシェベルトタンパク質がβカテニンの分解を抑制する」という主旨のことを書けばじゅうぶんです。
設問(3):外胚葉、中胚葉、内胚葉からどのようなものが分化するのかを下の表に示します。
胚葉 | 分類 | 分化するもの |
外胚葉 | 表皮 | 表皮、水晶体、角膜など |
神経管 | 脳、脊髄、網膜、運動神経など | |
神経堤細胞 | 色素細胞、感覚神経、自律神経、副腎髄質など | |
中胚葉 | 脊索 | (退化していく) |
体節 | 骨、骨格筋、真皮 | |
腎節 | 腎臓、輸尿管 | |
側板 | 心臓(心筋)、内臓筋、血管、血球 | |
内胚葉 | 腸管 | 消化管、付属器官(甲状腺、肺、肝臓、すい臓、ぼうこうなど) |
設問(4):問題文に書かれていることから、もしβカテニンがなければ形成体はつくられることがないとわかります。そして、問題の図3を見ると、組織(D)はβカテニンが蓄積されるところとおおむね一致します。タンパク質Yはもともと受精卵には存在していないという仮定ならば、組織(D)に蓄積されたβカテニンによってタンパク質Yが発現し、そのタンパク質Yが形成体を誘導すると考えることができます。
解答としては、βカテニンとタンパク質Yの関係を求められているので、「βカテニンが存在することでタンパク質Yが存在することができる(=タンパク質Yの存在はβカテニンのおかげ)」という主旨を述べればじゅうぶんだと思われます。