この問題でおさえておきたいこと
進化の要因や適応選択にはどのようなものがあるかを理解する!
分子進化については生存にあまり影響を与えない変化が大きくなる!
解答
問1 ③ 問2 ⑤ 問3 ④
問4 ① 問5 ④
重要事項のまとめ
・進化の過程
ある集団が、地殻変動など移動できない理由ができて、もともとの集団から隔離される(地理的隔離)
↓
突然変異が生じ、遺伝的浮動(集団内の遺伝子頻度が偶然に左右されて変化すること)や自然選択により、遺伝子構造に変化が起こる
↓
長い年月が過ぎ、もともとの集団と交配することが不可能なほどになる(生殖的隔離)
↓
さらに新たな種が生じる(種分化)
・自然選択について
集団の中で有利な形質をもつ個体が次世代により多くの子孫を残すことを自然選択といい、その自然選択を引き起こす要因(温度、降水量、種内競争、配偶相手など)を選択圧という。また、自然選択を経て環境に適応した個体が残っていくことを適応進化という。
適応進化には次のようなものがある。
- 擬態…
風景や他の生物に姿を似せた形に進化 - 共進化…
異なる生物同士がお互いに影響しあって進化すること - 性選択…
同性間や異性間で気を引いてもらえるように進化 - 適応放散…
同じ祖先から環境に適応することで多様な種に分化 - 収束進化…
祖先が異なっても同じ環境に適応することでよく似た特徴を持つように変化
・分子進化について
DNAの塩基配列やタンパク質のアミノ酸配列の変化のことを分子進化といい、この変化の速度のことを分子時計という。
分子時計は進化の過程で、ある種とある種が分岐した年代を知る手がかりとなる(配列数の違いが少なければ分岐してからの年数が短い)。
生物の機能にあまり影響を与えないものについて分子進化における変化が大きいので、分子進化は次のような傾向がある。
- イントロンの塩基配列や、機能にあまり影響を与えない塩基配列やアミノ酸配列は変化速度が大きい
- コドンの3番目の塩基配列は変化速度が大きい
※進化について、生存に有利でも不利でもない突然変異が蓄積し、遺伝的浮動によって集団に広まったという説があります。この説は中立説というもので木村資生によって提唱されました。
解説
問1 互いに異なっているアミノ酸配列の割合が小さければ分岐してからの年数は少ないわけですから、たとえば値が0.90%と最も小さいゴリラとチンパンジーは分岐してからの年数が最も少ない(つまり近縁)はずです。
次に値が小さいのが、ゴリラとの値が1.77%、チンパンジーとの値が1.93%となっているオランウータンですから、2番目に近縁なのがオランウータンです。ということは、分岐してから一番年月が経ってしまっているのはニホンザルということになります。ここまでのことをすべてあらわした系統樹は③ですね。
問2 分子時計の考え方とは「アミノ酸の変化速度は一定」ということであり、その考え方をとると、問題文よりチンパンジーとオランウータンは1300万年かけてアミノ酸の違いを1.93%にまで広げたということになります。
そこで、その考え方にしたがって、ヒトとチンパンジーは600万年かけてアミノ酸の違いを$x$%にまで広げたということにすると、
\( 1300万:600万 = 1.93%:x% \)
これを解くと、\( x ≒ 0.891 \)なのでⓕが正しいです。
ただし、実際はこの値より小さかったと問題文にあります。これはつまり、アミノ酸の変化速度は小さかったということです。「重要事項のまとめ」にもふれているとおり、機能に影響がほとんどない変化は、そのまま子孫に受け継がれるため変化速度は大きいです。
ということは、機能に影響したり、生存や繁殖に不利になるような変化であれば、それは子孫に受け継がれないということになります。よって、生体に重要なタンパク質であれば、アミノ酸の変化は子孫に受け継がれていかず、変化速度は小さい状態となるわけです。このことを最もあらわしているのはⅡといえます。
問3 「重要事項のまとめ」にもあるとおり、「共通祖先から多様な種に分化する」というのは適応放散です。ちなみに、「競争的排除(競争排除)」とは、2種間の競争の結果、一方の種が同じ場所で共存できなくなり、その空間からいなくなる現象のことをいいます。
問4 生存や繁殖に影響しない突然変異であれば、遺伝子頻度の偶然による変化、つまり遺伝的浮動によってその変異は集団内に広まります(「重要事項のまとめ」の中立説の説明でふれたとおりです)。よって、 ア には「遺伝的浮動」が入ります。
そして、問2の解説でもふれたとおり、不利な影響があれば子孫には受け継がれていかず排除されていきます。ですから、塩基配列の違いの多くは、生存や繁殖に影響しない突然変異に由来します。
また、「重要事項のまとめ」の説明にもあるとおり、分子時計の考えでは配列数の違いが少なければ分岐してからの年数が短いわけなので、塩基配列の違いは、分岐してからの年月が長いほど大きいということになりますね。
問5 同義置換はアミノ酸配列の変化を起こさないので、生存や繁殖に影響しません。よって、表1で同義置換のデータを参考にする必要はなく、アミノ酸配列の変化を起こす非同義置換だけを考えればじゅうぶんです。
遺伝子X~Zについて、どれも非同義置換は同じ確率で置きますが、問2や問4の解説でもふれたとおり、生存や繁殖に不利な影響が起こる変化は集団内から排除され、子孫に引き継がれませんから、塩基置換の率が低い遺伝子ほど、生存や繁殖への影響が大きいために変異が受け継がれなかったと考えられます。
表1を見ると、遺伝子Xでは非同義置換がまったくないので、この遺伝子に変異が起こると生存や繁殖に有害な作用が一番起きやすいといえます。逆に遺伝子Yは非同義置換が最も多いので、変異しても生存や繁殖に有害な作用が一番起きにくいために、変化が蓄積されていったのでしょう。
遺伝子Zは遺伝子Xと遺伝子Yの間の数値になっているので、求める確率の大小はY<Z<Xとなります。