この問題のポイント
無理数・有理数の証明や「~でない」「少なくとも~」の命題の証明には背理法が使える!
(1)① 〈指針〉
自分が証明したい命題について「この命題は成り立たない」と仮定して矛盾を導いていき、「矛盾が生じるのだから、やはりこの命題は正しいとせざるをえない」という結論に導く証明方法を背理法といいます。
「~でない」「少なくとも~」とある命題の証明でも背理法を利用できることが多いです。これを否定すると「~である」「すべての~」となって論証がしやすくなるからです。
この問題の場合は「少なくとも一つは奇数」を否定するので「$a$,$b$すべて偶数」といったん仮定して論証することとなります。ちなみに、$a$,$b$,$c$は「最大公約数は1」という条件があると設定されていますね?さらに、$a$,$b$,$c$は直角三角形の辺で$c$が斜辺ですから、\( a^2+b^2 = c^2 \)が成り立ちます。
よって、「$a$,$b$すべて偶数」と仮定して$a$,$b$,$c$に1以外に公約数ができた、または\( a^2+b^2 = c^2 \)が成り立たなくなったということを導き出せれば、背理法での証明ができたということになります。
〈証明〉
$a$,$b$いずれも偶数であると仮定する。
いずれも偶数なので、
$a = 2m$,$b = 2n$($m$,$n$はいずれも自然数)とおける。
$a$,$b$,$c$は$c$を斜辺とする直角三角形の3辺の長さなので、\( a^2+b^2 = c^2 \)が成り立つ。
よって、
\( c^2 = (2m)^2+(2n)^2 \)
\( = 4m^2+4n^2 \)
\( = 2(2m^2+2n^2) \)
これより、$c^2$は偶数なので、$c$も偶数となる。
すると、$a$,$b$,$c$はすべて偶数、つまり2の倍数となり、最大公約数が1であることと矛盾する。
よって、$a$,$b$のうち少なくとも一つは奇数である。
② 〈指針〉
「少なくとも~」とある命題なので背理法の利用を考えましょう。「少なくとも一つは偶数」を否定するので「$a$,$b$すべて奇数」といったん仮定することとなりますね。
さっきは、「$a$,$b$すべて偶数」と仮定したから$a = 2m$,$b = 2n$とおきました。この問題では「$a$,$b$すべて奇数」と仮定しますので$a = 2m+1$,$b = 2n+1$とおき、これで計算すると$c^2$について不具合が生じるかを調べていくこととなります。
〈証明〉
$a$,$b$いずれも奇数であると仮定する。
いずれも奇数なので、
$a = 2m+1$,$b = 2n+1$($m$,$n$はいずれも自然数)とおける。
\( a^2+b^2 = c^2 \)が成り立つので、
\( c^2 = (2m+1)^2+(2n+1)^2 \)
\( = 4m^2+4m+1+4n^2+4n+1 \)
\( = 4(m^2+m+n^2+n)+2 \)
これより、$c^2$を4で割った余りは2である。
ここで、$c$は必ず偶数か奇数かどちらかであるが、
$c$が偶数の場合、\( c = 2p \)($p$は自然数)とおけるので、
\( c^2 = (2p)^2 = 4p^2 \)
$c$が奇数の場合、\( c = 2p+1 \)($p$は自然数)とおけるので、
\( c^2 = (2p+1)^2 \)
\( = 4p^2+4p+1 \)
\( = 4(p^2+p)+1 \)
つまり、$c^2$を4で割った余りは0か1ということになるが、これはさきほど導いた「$c^2$を4で割った余りは2」ということと矛盾する。
よって、$a$,$b$のうち少なくとも一つは偶数である。
③ 〈指針〉
これも「少なくとも~」とある命題なので背理法の利用を考えます。この問題では「$a$,$b$いずれも3の倍数ではない」といったん仮定することとなります。
3の倍数でないなら、$a$,$b$それぞれについて$3m+1$,$3m+2$の2通りずつを仮定して計算していくことになります。ただ、そうなると4通りの計算をしなければならず、とても面倒ですよね?そこで、$a$,$b$それぞれを$3m±1$としてひとまとめに計算していくことにしましょう。
〈証明〉
$a$,$b$いずれも3の倍数ではないと仮定する。
$a = 3m±1$,$b = 3n±1$($m$,$n$はいずれも自然数)とおく。
\( a^2+b^2 = c^2 \)が成り立つので、
\( c^2 = (3m±1)^2+(3n±1)^2 \)
\( = 9m^2±6m+1+9n^2±6n+1 \)
\( = 3(3m^2±2m+3n^2±2n)+2 \)
これより、$c^2$を3で割った余りは2である。
ここで、$c$が3の倍数の場合、\( c = 3p \)($p$は自然数)とおけるので、
\( c^2 = (3p)^2 = 9p^2 \)
$c$が3の倍数でない場合、\( c = 3p±1 \)($p$は自然数)とおけるので、
\( c^2 = (3p±1)^2 \)
\( = 9p^2±6p+1 \)
\( = 3(3p^2±2p)+1 \)
つまり、$c^2$を3で割った余りは0か1ということになるが、これはさきほど導いた「$c^2$を3で割った余りは2」ということと矛盾する。
よって、$a$,$b$のうち少なくとも一つは3の倍数である。
(2)〈指針〉
この問題のような、無理数や有理数であることの証明にはこの背理法を利用することがとても多いです。
有理数とは「分数の形であらわすことのできる数」のことなので、\( \displaystyle \frac{b}{a} \)などの形であらわすことができます。これを利用して命題pの真偽を証明します。このとき、既約分数であることを示すために、$a$と$b$は互いに素(最大公約数は1)という条件を加えることが重要です。この条件を使って矛盾を導くこととなるからです。
命題qでは\( \sqrt{n+1}-\sqrt{n} \)という式について無理数か有理数か証明しますが、式の場合は分数の形ではなく、有理数$r$など1つの文字をおいて利用するとラクな場合が多いです。有理数どうしの和や差、積や商は有理数だという性質を使って証明ができるからです。
〈証明〉
命題pについて、\( \displaystyle \sqrt{n} = \frac{b}{a} \)($a$,$b$は互いに1以外の公約数をもたない自然数)とする。
両辺を2乗すると、\( \displaystyle n = \frac{b^2}{a^2} \)
ここで、$a$,$b$は互いに1以外の公約数をもたないので、$a^2$,$b^2$も互いに1以外の公約数をもたない(公約数を使って約分ができない)。
$n$は自然数なので$a^2 = 1$となるので、$n = b^2$…[A]
同様に考えると、\( n+1 = c^2 \)…[B]($c$は$a$とも$b$とも互いに1以外の公約数をもたない自然数であり、$c>b≧1$とする)
ここで、[B]-[A]より、\( 1 = c^2-b^2 \)
\( (c+b)(c-b) = 1 \)
$c>b≧1$という条件より、$c+b$は3以上の値となり、$c-b$は1以上の値となるため、\( (c+b)(c-b) = 1 \)が成り立つことはない。
よって、命題pは正しくない。
次に、命題qについて、\( \sqrt{n+1}-\sqrt{n} \)は有理数だと仮定して、\( \sqrt{n+1}-\sqrt{n} = r \)…[C]($r$は有理数)とおく。
この等式の両辺に\( \sqrt{n+1}+\sqrt{n} \)をかけると、
\( (\sqrt{n+1}-\sqrt{n})(\sqrt{n+1}+\sqrt{n}) = r(\sqrt{n+1}+\sqrt{n}) \)
\( n+1-n = r(\sqrt{n+1}+\sqrt{n}) \)
\( r(\sqrt{n+1}+\sqrt{n}) = 1 \)
これより、\( \displaystyle \sqrt{n+1}+\sqrt{n} = \frac{1}{r} \)…[D]
ここで、[D]-[C]より、\( \displaystyle 2\sqrt{n} = \frac{1}{r}-r \)
\( \displaystyle \sqrt{n} = \frac{1}{2}\left(\frac{1}{r}-r\right) \)
$r$は有理数なので、\( \displaystyle \frac{1}{2}\left(\frac{1}{r}-r\right) \)も有理数である。
また、[D]+[C]より、\( \displaystyle 2\sqrt{n+1} = \frac{1}{r}+r \)
\( \displaystyle \sqrt{n+1} = \frac{1}{2}\left(\frac{1}{r}+r\right) \)
$r$は有理数なので、\( \displaystyle \frac{1}{2}\left(\frac{1}{r}+r\right) \)も有理数である。
すると、\( \sqrt{n} \)も\( \sqrt{n+1} \)も両方とも有理数ということになり、命題pで証明したことと矛盾する。
よって、\( \sqrt{n+1}-\sqrt{n} \)は無理数である。
よって、命題qは正しい。
答え.
(1)
①~③まですべて上の〈証明〉参照
(2)
命題pは正しくない。命題qは正しい。
(証明は上の〈証明〉参照)