この問題でおさえておきたいこと
イスラーム社会と文明の特質を理解する!
固有の学問と外来の学問など学問での業績や文学作品もチェック!
解答
問1
(ア)…b (イ)…c (ウ)…a (エ)…c
(オ)…b (カ)…b (キ)…c
問2
1…e 2…a 3…c
問3
a
問4
c
問5
d
解説
問1 「ポイントのまとめ」の内容を参考にすると、どの文がどの人物の説明になっているか判断できるかと思われます。
(ア) 著作が『世界史序説』であることが大きなヒントになりますが、イブン=ハルドゥーンの出身地がチュニスであることもおさえておきたいポイントです。
ちなみに、名前が「イブン」ではじまっているほかの人物の出身地はこのようになっています。4人ともおさえておきたいところです。
- イブン=ハルドゥーン…チュニス
- イブン=シーナー…ブハラ近郊
- イブン=ルシュド…コルドバ
- イブン=バットゥータ…モロッコ
(イ) アリストテレスの著作に注解を施したという記述で、イブン=ルシュドと判断できます。
(ウ) 『三大陸周遊記』という記述がイブン=バットゥータと判断できる決め手となります。
(エ) イスラーム文化においての有名な数学者となるとフワーリズミーです。「代数学」を意味する英語、algebraは彼の著作名が由来ですし、プログラム用語である「アルゴリズム」は彼の名前が由来です。
(オ) 『医学典範』という記述がイブン=シーナーと判断できる決め手となります。
(カ) 『シャー=ナーメ』という記述でフィルドゥシーと判断できると思われます。『シャー=ナーメ』はイラン建国からササン朝滅亡までの歴史を扱った大叙事詩です。
(キ) ウマル=ハイヤームの功績としてまず知っておくべきことは『ルバイヤート』を著したことでしょう。余力がある人や、難関校をめざす人はジャラーリー暦を作成したこともおさえておきましょう。
問2 とくにチュニスとコルドバの位置はおさえておくようにしましょう。ちなみに、bはグラナダ、dはマラケシュ、fはトリポリです。
問3 「ポイントのまとめ」にあるとおり、知識人の総称はウラマーです。余力がある人や難関校をめざす人は、カーディーはイスラーム世界における裁判官、カーリミー商人はアイユーブ朝やマムルーク朝の保護を受けて活躍した商人であることもおさえておきましょう。
問4 「この学問は固有の学問でこの学問は外来の学問で…」と覚えるよりも、アラビア語とコーランに関連する学問が固有の学問という定義にしたがって考えていきましょう。
文法学はアラビア語についての学問です。法学はコーランやハディース(ムハンマドの言行録)をもとにしたイスラーム法の解釈などをおこないます。神学はまさにイスラーム教の教えを研究する学問です。一方、哲学はギリシアのアリストテレス哲学の研究からはじまったので、これが外来の学問といえるわけです。
問5 六信五行の中身は以下のとおりです。
六信(6つの信ずるべき対象)…神、天使、啓典、預言者、来世、天命
五行(5つの実践すべきこと)…信仰告白、礼拝、喜捨、断食、巡礼
ポイントのまとめ
・イスラーム文化の特徴
- オリエントの文明とイスラーム教とアラビア語による融合文明である
- バグダードやカイロなど大都市に発達した都市文明である
- イスラーム教は民族差別を否定し、イスラーム教徒の平等を説いたため、各地の文明と融合した普遍的文明となった
(イラン圏、インド圏、トルコ圏など)
・イスラーム社会における都市
公共施設が整備
- モスク(宗教施設)
- 教育機関であるマドラサ(学院)
- 市場であるスーク(イラン圏ではバザールという)
- 整備された交通路や、商人宿であるキャラバンサライにより遠隔地にも影響をおよぼす
知識人であるウラマーが指導層として活躍
しかし、しだいに官僚化、イスラーム法の形式主義が広まる
ウラマーの形式主義への反発として、形式主義を排し、アッラーとの一体感を求める神秘主義(スーフィズム)が流行
都市の手工業者・農民の間に広まる
・学問での業績
コーランやムハンマドのことに関連した学問分野を固有の学問、ギリシアやインドなどアラブ文化以外からもたらされた学問を外来の学問という
1.固有の学問
歴史学
- タバリー
…アッバース朝時代に活躍。『預言者と諸王の歴史』という年代記的世界史を著した。 - イブン=ハルドゥーン
…チュニス出身。『世界史序説』で王朝興亡の法則性を探った。 - ラシード=アッディーン
…イル=ハン国の政治家。ガザン=ハンの命を受け、ペルシア語でモンゴル史を論じた『集史』をのこした。
神学
- ガザーリー
…セルジューク朝時代に活躍。ニザーミーヤ学院でスンナ派神学の研究をおこない、その後スーフィズムの理論化を進めた。
固有の学問としては、ほかに法学、文法学、書記学、詩学などがある。
2.外来の学問
数学・天文学
- インドの数学の概念(十進法、ゼロの概念)を取り入れ、アラビア数字を考案。
- フワーリズミー
…代数学を発達。 - ウマル=ハイヤーム
…ジャラーリー暦を作成。文学面でも『ルバイヤート』という四行詩集を残す。
医学
- イブン=シーナー
…ラテン語ではアヴィケンナとよばれる。『医学典範』を著す。
哲学
- イブン=ルシュド
…ラテン語ではアヴェロエスとよばれる。アリストテレスの著作に注釈を加え、アラビア語に翻訳。のちのヨーロッパでおこったスコラ哲学に大きな影響。
外来の学問としては、ほかに論理学、地理学、光学、錬金術などがある。
・文学、建築、美術
- インド・イラン・アラビア・ギリシアなどの説話の集大成である『千夜一夜物語』(アラビアン=ナイト)が完成。
- フィルドゥシーがペルシア語の叙事詩『シャー=ナーメ(王の書)』を著す。
- イブン=バットゥータがアフリカ、東ヨーロッパ、アジアを旅し、『三大陸周遊記』を著す。
- イェルサレムの岩のドームなどのモスク建築
(ドーム(丸屋根)やミナレット(光塔)などをもつ) - 中国の絵画から影響を受けたミニアチュール(細密画)が発達
※イスラーム教では偶像崇拝を厳しく禁止しているので、絵画や彫刻などはあまり発達しませんでした。