この問題でおさえておきたいこと
活性部位以外の部位に結合して活性を変化させる酵素がアロステリック酵素!
化学反応の最終産物により酵素の反応が抑制されるのがフィードバック!
解答
問1
ア …糖 イ …RNA
ウ …リボース エ …DNAポリメラーゼ
問2
50.4kg
問3
(1) フィードバック調節
(2) (例)ATPがATCaseのアロステリック部位に結合し、それにより酵素の活性を上昇させている。
(3) (例)例としてヘモグロビンがあり、酸素の濃度が高い肺胞では多くのヘモグロビンが酸素と結合することができ、酸素の濃度が低い組織にて多くのヘモグロビンが酸素を離すことができるので、身体の各組織に酸素を供給しやすくなる点で有利である。
(4) (例)触媒サブユニットにはアロステリック部位はなく活性部位があり、ATCaseの活性を上昇させる。調節サブユニットには活性部位がなくアロステリック部位があり、触媒サブユニットの活性を抑える。
問4(例)
デオキシリボースが作られなくなるためDNAが新たに複製されず、細胞分裂ができなくなる。
重要事項のまとめ
・アロステリック酵素とは
酵素の作用は基質(酵素がはたらきかける相手)とは異なる物質が結び付くことで立体構造が変化し、活性が変わることがある。そのような酵素をアロステリック酵素という。
基質とは異なる物質がアロステリック酵素と結びつく場所をアロステリック部位という。ふつうは活性部位とちがう場所にある。
アロステリック酵素は、ふつう複雑な四次構造となっており、基質濃度と反応速度との関係(基質が多くなると反応速度がどうなるか)を示したグラフはS字型を描く。
・フィードバック調節
複数の酵素がかかわって連続的に化学反応が進んでいくことで最終的な反応物ができる。この反応物がはじめあたりの化学反応に関係する酵素と結び付くことで、連続的な化学反応全部の進行を調節することをフィードバック調節という。
フィードバック調節の例:
酵素Aが関係する化学反応→酵素Bが関係する化学反応→酵素Cが関係する化学反応→…
↓
すべての化学反応によって物質aができる
↓
物質aが酵素Aのアロステリック部位に結合する
↓
酵素Aの活性が落ち、酵素Bが関係する化学反応とそれ以降もそれによって進まなくなる
解説
問1
DNAなどについての基本的な知識を問う問題となっています。ここでは、空所になっていた糖と塩基が関係しているヌクレオシドなどについて確認をしていきましょう。ヌクレオシドは糖と塩基が結合したもので、たとえばRNAのヌクレオシドの糖はリボース、DNAのヌクレオシドの糖はデオキシリボースです。
そのヌクレオシドの糖にリン酸が結合したものをヌクレオチドといいます。たとえば、RNAやDNAの合成に使われるヌクレオチドはデオキシリボヌクレオシド三リン酸です。これがもつ高エネルギーリン酸結合がたくわえるエネルギーがRNAやDNAの合成に使われているのです。
問2
1ngは\( 1×10^{-9} \)gなので、0.84ngは\( 0.84×10^{-9} \)g、つまり\( 8.4×10^{-10} \)gです。これが1日に細胞1個当たりが消費するATPの量です。これが細胞60兆個となると、60兆は\( 60×10^{12} \)なので、
\( 8.4×10^{-10}×60×10^{12} \)
\( = 504×10^2 \)g、つまり50400gのATPが消費されます。
これをkgになおすと、50.4kgとなります。
ちなみに、ATPは細胞1個当たり0.00084ngしか存在しないが、0.84ngのATPを消費するということは、1日に1個のATPが1000回(\( \displaystyle \frac{0.84}{0.00084} \))分解され再生されていることを意味します。
問3
(1) CTP存在下の結果を示した曲線bは曲線aより下方にあります。これはCTPが存在すると反応速度が低下するということであり、つまりATCaseの活性が低下することを意味しています。
CTPはATCaseが関係する反応で最終的に生成される物質であることは問題文にありました。その最終生成物によって、酵素の活性に影響を与えているというのは、まさに「重要事項のまとめ」でも説明されたフィードバック調節です。
ちなみに、フィードバック調節には意義があって、生成物が過剰につくられたり、基質やエネルギーをむだに消費したりすることを防ぐことができます。論述問題などでの出題で見受けられることがあるので、このこともおさえておくようにするといいでしょう。
(2) ATP存在下の結果を示した曲線cは曲線aより上方にあります。ということは、ATPが存在すると反応速度が上向く、つまりATCaseの活性が上昇するということになります。
しかし、ATCaseの基質はアスパラギン酸ですから、ATPが活性部位と結合したとは考えにくいです。別の部位に結合したと考えるのが自然ですが、ATCaseにはアロステリック部位が存在することが問題文にありましたから、ATPはそこに結合したと考えることができます。
アロステリック部位に結合すると、酵素の立体構造が変化し、酵素の活性が変化します。この実験では、酵素の立体構造が変化して、基質であるアスパラギン酸との親和性が高まったというわけですね。
解答のチェックポイント
- ATPが結合した場所としてATCaseのアロステリック部位であることを答えているか
- ATPの結合により、ATCaseの活性が増大したことを述べているか
(3) S字型の曲線ということと、タンパク質ということから、ヘモグロビンの解離曲線を思い出したいところです。ヘモグロビンは酵素ではありませんが、4つのサブユニットをもつアロステリックタンパク質なんです。
それぞれのサブユニットにあるヘムが酸素分子1つと結合することができます。ヘムが酸素分子と結合するたびにタンパク質の立体構造が変化し、酸素との親和性が上がるというしくみになっています。
このしくみのおかげで、酸素の多い肺胞では酸素分子と多く結合して酸素の少ない組織では酸素を離すということが可能となり、効率的に酸素を運搬することができるというわけです。
解答のチェックポイント
- 例としてヘモグロビンを挙げているか
- 酸素の多い環境下では多くの酸素と結合し、酸素の少ない環境下では酸素と結合しなくなるという性質を述べているか
- 体内における酸素の運搬という生理的な意義にふれているか
(4) 触媒サブユニットだけという条件下の曲線dと曲線aのグラフを比べると、曲線dのほうが上方にあります。ということは、調節サブユニットがないという状況であれば触媒サブユニットの活性は高くなるということになります。
一方、調節サブユニットだけという条件下の曲線eのグラフでは、反応速度がほぼ0という状態になっているので、調節サブユニットの活性はありません。よって、ATCaseの活性部位は触媒サブユニットにあると考えることができます。
さらに、曲線aと曲線dのグラフを比べると、曲線aではアスパラギン酸の濃度が一定以上になると反応速度の上昇がみられなくなります。さっきの(1)の解説と重なる部分がありますが、最終的な生成物がアロステリック部位に結合することで活性に影響を与えるというフィードバック調節が曲線aで示されているわけです。
しかし、曲線dでは濃度に比例して反応速度が上昇している形にほぼなっています。これより、アロステリック部位は触媒サブユニットには存在せず、調節サブユニットのほうに存在すると判断できます。調節サブユニットは触媒サブユニットの活性を抑える役割を持っていたというわけですね。
解答のチェックポイント
- 触媒サブユニットには活性部位が存在していることを述べているか
- 調節サブユニットにはアロステリック部位が存在していることを述べているか
- 調節サブユニットは触媒サブユニットの活性を抑えていることを述べているか
問4
問題文より、リボヌクレオチド還元酵素のおかげでデオキシリボースが作られ、そしてデオキシリボヌクレオチド三リン酸が作られます。ということは、リボヌクレオチド還元酵素が阻害されるとデオキシリボヌクレオチド三リン酸が作られなくなってしまうこととなります。
しかし、これだけでは解答としては不十分です。設問には「細胞にどのような影響を及ぼすと考えられるか」とありましたね?デオキシリボヌクレオチド三リン酸はDNAの新生鎖の伸長に使われることも問題文にありました。これをふまえて細胞が関係することに与える影響は何かを考えないといけません。
デオキシリボヌクレオチド三リン酸が不足すると新たなDNAの複製ができなくなります。そうすると細胞分裂はDNAの複製から始まりますから、細胞分裂も始まらないということになってしまいます。解答としてはここまで踏み込んだものとするべきでしょう。
解答のチェックポイント
- デオキシリボースまたはデオキシリボヌクレオチド三リン酸が作られなくなることを述べているか
- その影響でDNAの複製や細胞分裂が行われなくなることを述べているか