この問題でおさえておきたいこと
PCR法がどのような手順でなされるか確認しよう!
1サイクルの操作でDNA量は2のn乗倍になる!
解答
問1
(1)プライマー
(2)(DNA)ポリメラーゼ
問2
(ア),(エ)
問3(例)
鋳型となる2本鎖DNAを1本鎖に解離することができなくなったから。(33字)
問4
(1)4倍
(2)\( \displaystyle \frac{1}{64} \)倍
重要事項のまとめ
・PCR法の手順
DNAから目的の遺伝子を増幅させる方法としてPCR法(ポリメラーゼ連鎖反応法)がある。その手順は次のとおりである。
複製したい遺伝子をもつ2本鎖DNA(=鋳型となる2本鎖DNA)、プライマー(増幅させたい遺伝子部分と相補的配列になるよう設計した遺伝子)、DNAポリメラーゼ(DNAを合成するはたらきをもつ酵素)、ヌクレオチド(DNAの材料となるもの)を混ぜた溶液を用意する
↓
溶液を95℃くらいまで加熱する
2本鎖DNAの水素結合が切断され、2つの1本鎖DNAとなる
↓
溶液を50~60℃くらいにまで冷やす
溶液中のプライマーが1本鎖DNAと結合するアニーリングが起こる
↓
溶液を72℃くらいにまで加熱する
プライマー部分を起点として、溶液中のDNAポリメラーゼがヌクレオチドを使ってDNAの合成を始め(DNA伸長反応)、2本鎖のDNAにしていく
↓
2本鎖DNAが完成し、最初にあった2本鎖DNAの本数の2倍となる
ここまでを1サイクルとする
↓
ここまでの流れを再び繰り返して遺伝子を増幅させる
解説
問1
(1)「重要事項のまとめ」にある、PCR法で使う溶液の中身についての記述を参照すると、プライマーであると考えることができます。
(2)「重要事項のまとめ」を参考にすると、DNAポリメラーゼだと判断することができます。PCR法では、温泉などに生息する好熱菌由来のDNAポリメラーゼを利用します。PCR法では95℃くらいまでの加熱など高温になることがあるので、耐熱性をもつものであれば、変性・失活を防ぐことができるためです。
問2
提示された1本鎖DNAの5'側にある配列(AGC~TCG)をⒶ、3'側にある配列(CGA~TTG)をⒷとします。DNAポリメラーゼは新生鎖を5'から3'の方向にしか伸長させることができません。鋳型となるもとのDNAも、複製される新たなDNAも、方向性は逆向きになることに注意しましょう。
すると、プライマーは鋳型となるDNAの3'側に結合することとなりますので、提示された1本鎖DNAについては、Ⓑと結合するプライマーを考える必要があります。DNAの塩基では、AとT,GとCが対合します。よって、Ⓑと結合するプライマーは、5'と3'が反対向きになることに注意すると、
3'-GCTAAGCTAGGCGAGAAC-5'
である(エ)とわかります。Ⓐに対して設計されるプライマーについてですが、これについては相補的なもう一方の鎖を考える必要があります。Ⓐと相補的になる塩基配列は、TCGTTAGAGAGCTAGAGCであり、もう一方の鎖についてはこれが3'側となります。
よって、これと結合するプライマーを考えればいいということになります。さっきのように、5'と3'が反対向きになることに注意して考えると、
5'-AGCAATCTCTCGATCTCG-3'
である(ア)とわかります。
問3
95℃の高温にすることで、2本鎖DNAの水素結合が切断されて1本鎖となりますが、その温度より低い85℃にしてしまうと、その水素結合の切断がされません。その結果、プライマーの結合もできないので、DNAポリメラーゼもはたらくことがなかったと考えられます。
少ない字数で記述しないといけませんので、PCR法のプロセスが進まないそもそもの原因であるDNAの切断がなかったことを中心に簡潔にまとめる程度でよいでしょう。
解答のチェックポイント
- 1本鎖DNAへの解離がされていないことにふれているか
- 文末は「~から」「~ため」「~という理由」など、理由を述べていることがわかる形で書かれているか
問4
(1)PCR法では、理論上、1サイクルでDNA量は2倍になります。ということは、2サイクルで4倍、3サイクルで8倍、…となっていくわけなので、$n$サイクルくり返せばDNA量は$2^n$倍になります。この性質を利用して考えます。
同じDNA量になるまで、Aは16サイクル、Bは18サイクル必要とされました。Aのほうが少ないサイクル数ですんでいるので、Aのほうが18-16 = 2サイクル分DNA濃度は濃かったことになります。よって、実行前のAのDNA濃度は$2^2$倍、つまり4倍です。
(2)同じDNA量になるまで、Aは16サイクル、Cは22サイクル必要とされました。Aのほうが22-16 = 6サイクル分DNA濃度は濃いことになるので、実行前のAのDNA濃度は$2^6$倍、つまり64倍です。よって、実行前のCのDNA濃度は\( \displaystyle \frac{1}{64} \)倍ということになります。