この問題でおさえておきたいこと
北村透谷、夏目漱石、森鴎外それぞれが、自己と社会が衝突したときの考え方をどう提唱したかを区別しよう!
解答
問1 ① 問2 ② 問3 ①
解説
問1 北村透谷の思想で重要なポイントは「個人の内面的世界(想世界)は現実の世界(実世界)から独立した自由なものであるべき」ということと、「想世界において自己の内面的要求を実現できる」ということの2点です。
それと照らし合わせると、②は「自己の実現は、実世界における実践で確立される」というところが、④は「想世界と実世界は一致し」というところが誤りとなります。
そして、北村透谷は、想世界による内面の充実をするための方法として恋愛を重視しました。よって、①が正しいといえます。この「恋愛を重視した」ということを知っていないと難しい問題だといえます。
問2 夏目漱石の個人主義に関する思想で重要なポイントは「自己の個性だけでなく他者の個性も尊重しなければならない」ということです。それがよく表れている選択肢は②といえます。
ちなみに、①は「真の利己心を発揮」、③は「自己と世界が統一される」、④は「宇宙・自然を我が身で直接感受」が誤りです。夏目漱石は、自我の要求を貫こうとするとエゴイズム(自己中心主義)がともなうとも考えていましたし、則天去私は天が与える運命に自分をゆだねるだけにすぎません。
問3 森鴎外の諦念に関する思想で重要なポイントは「自己の置かれた現実や立場を受け入れる」ということと、「受け入れるけれども自己にはこだわる」ということの2点です。
それと照らし合わせると、②と④は「自我に対するこだわりを捨て」というところが誤りとなります。そして、③は現実を受け入れるのではなく「現実から逃れる」ことをしているわけなので、この点が誤りといえます。よって、正解は①です。
ポイントのまとめ
近代的自我…自分を心の面などから支えるという考え方。内面的な自己意識。
1.北村透谷の思想
- ロマン主義文学(自由な感情や個性などを強調し、自我の尊重と解放を主張した文学)の先駆者で、男女平等や恋愛の自由を唱え、文学で「個」の確立をめざす
- 目に見える現実(=実世界)ではなく、個人の内面的世界(=想世界)で自己の内面的要求を実現しようとし、想世界の自由と独立を重視した
- 「内部生命論」で内面的世界の自由と幸福を重んじた
※北村透谷が先駆者となってつくられたロマン主義文学では、『若菜集』で自我のめざめと苦しみを新鮮な感覚で歌った島崎藤村や、『みだれ髪』で自分の欲望や官能を肯定した与謝野晶子などが活躍しました。
2.夏目漱石の思想
- イギリス留学の経験から、自己本位(自己の内面の要求にしたがってわが道を切り開く)にめざめる
-
『私の個人主義』の講演で、自己の個性だけでなく他者の個性も尊重しなければならないと説く
(これが夏目漱石の個人主義の考え方) - 日本の文明開化を、西洋文化に圧迫された近代化(外発的開化)と批判し、自分の心などの内面からの近代化(内発的開化)をすべきとした
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現実には、自我の要求を貫こうとするとエゴイズム(自己中心主義)がともなって他者と衝突してしまう
→晩年には、小さな自分を捨て、天が与える運命のままに自分をゆだねるという則天去私の考えに
※夏目漱石の『こころ』という作品では、主人公が自分の中にあるエゴイズムと、道徳や友情と葛藤している様子が描かれています。
3.森鴎外の思想
- 個人と社会の葛藤においては、自己を貫くのではなく、自己の置かれた現実を受け入れつつも、自己にこだわるという哲学(諦念)に至る
※森鴎外の『舞姫』という作品では、主人公の青年が諦念に至る過程が表現されています。