この問題のポイント
アンモニアや硝酸の製法と化学反応式をおさえよう!
硝酸は金属との反応、一酸化窒素・二酸化窒素は製法や水に溶けるかどうかも要確認!
問1
窒素と水素から直接アンモニアを合成するという工業的製法をハーバー法(ハーバー・ボッシュ法))といいます。ハーバー法(ハーバー・ボッシュ法)で起こっている反応は次のようにあらわせます。
ハーバー法(ハーバー・ボッシュ法)
四酸化三鉄($\ce{Fe3O4}$)を触媒に使って、次の反応がなされる。
$\ce{N2 + 3H2 -> 2NH3}$
問2
ハーバー法(ハーバー・ボッシュ法)の化学反応式について、式の左右の気体の分子数を比べると、式の左側のほうが多いと考えることができます。よって、圧力を高くすると、ルシャトリエの原理より、圧力が低くなる方向(分子の粒子数が減る方向)へ平衡が移動します。
これにより、平衡は右に移動しますから、$\ce{NH3}$の生成率が高くなります。よって、解答としては、高圧の条件下が望ましいこと、そして理由として、圧力が低くなる方向(または分子の粒子数が減る方向)への平衡の移動を挙げればよいでしょう。
問3
この問題で取り上げられている、アンモニアから硝酸を生成する工業的製法をオストワルト法といいます。問題文にもありましたが、オストワルト法ではどのような過程で硝酸を生成しているのか、化学反応式とともに確認しましょう。
オストワルト法
1.白金を触媒としてアンモニアを酸化させ、一酸化窒素と水を生成させる。
$\ce{4NH3 + 5O2 -> 4NO + 6H2O}$
2.一酸化窒素は空気中ですぐに二酸化窒素に変化してしまう。
$\ce{2NO + O2 -> 2NO2}$
3.二酸化窒素と水を反応させ、硝酸を生成させる。
$\ce{3NO2 + H2O -> 2HNO3}$
反応(B)に入るのは、上の赤枠内にある1.の化学反応式ということになります。反応(E)に入るのは、上の赤枠内の1.~3.を合体させてつくられた化学反応式です。
まず、2.の式を3倍,3.の式を2倍して足し合わせると、$\ce{6NO2}$を消去できて、次の反応式ができます。
$\ce{4NO + 3O2 + 2H2O -> 4HNO3}$
そして、この式と1.を足し合わせると、$\ce{4NO}$を消去できて、次の反応式ができます。
$\ce{4NH3 + 8O2 -> 4HNO3 + 4H2O}$
これを4で割ってできた式$\ce{NH3 + 2O2 -> HNO3 + H2O}$が、反応(E)に入る化学反応式ということになります。少し予想しにくいので、この化学反応式と、上の赤枠内の1.と3.の化学反応式は暗記をしたほうが便利です。
問4
化合物全体としての酸化数は0ですが、化合物に含まれる$\ce{H}$の酸化数は+1,$\ce{O}$の酸化数は-2と基本的に考えましたね?これを使って、その他の原子の酸化数は計算で求めました。
反応(A)~(E)それぞれで生成される(=反応式の矢印の右側にある)、窒素$\ce{N}$の原子がふくまれる化合物について、$\ce{N}$の酸化数を$x$とおいて酸化数を調べるとこのようになります。
- (A)…$\ce{NH3}$について$\ce{H}$が3個あるので、
\( x+1×3 = 0 \)より、\( x = -3 \) - (B)…$\ce{NO}$について$\ce{O}$が1個あるので、
\( x-2 = 0 \)より、\( x = +2 \) - (C)…$\ce{NO2}$について$\ce{O}$が2個あるので、
\( x-2×2 = 0 \)より、\( x = +4 \) - (D)…$\ce{HNO3}$について$\ce{H}$が1個,$\ce{O}$が3個あるので、
\( +1+x-2×3 = 0 \)より、\( x = +5 \)
$\ce{NO}$は反応式(B)にて考えたとおり、\( x = +2 \) - (E)…$\ce{HNO3}$は反応式(D)にて考えたとおり、\( x = +5 \)
問5
(ア):硝酸は褐色ではなく無色の液体です。ちなみに、濃硝酸は光や熱によって二酸化窒素と水と酸素に分解され、その影響で徐々に黄色みを帯びていきます。そのため、褐色瓶に入れて冷暗所に保存します。濃硝酸が分解される化学反応式は次のとおりです。
$\ce{4HNO3 -> 4NO2 + 2H2O + O2}$
(イ):硝酸が水溶液となると、次のようなイオンに分かれます。
$\ce{HNO3 + H2O -> H3O+ + NO3-}$
このように、$\ce{H+}$を$\ce{H2O}$に与えることでオキソニウムイオン$\ce{H3O+}$が発生させることができれば、強酸性となっていきます。よって、濃硝酸($\ce{HNO3}$が多く$\ce{H2O}$が少ない)よりも希硝酸($\ce{HNO3}$が少なく$\ce{H2O}$が多い)のほうが酸性が強いことになります。
(ウ):硝酸には強い酸化作用があり、イオン化傾向が$\ce{H}$より小さい$\ce{Cu}$,$\ce{Ag}$,$\ce{Hg}$を溶かすことができます。
しかし、濃硝酸について、$\ce{Al}$,$\ce{Fe}$,$\ce{Ni}$を溶かすことはできず、不動態にしてしまう(=金属表面に酸化皮膜が生じる)だけとなってしまいます。
(エ):この文の内容は正しいです。植物の窒素肥料の原料として硝酸イオンが使われているのはこのためです。
(オ):この文の内容も正しいです。ちなみに、濃硝酸と濃硫酸が混ざったとき、どのようなイオンが生じるのかは、次のとおりです。
$\ce{HNO3 + 2H2SO4 -> NO2+ + 2HSO4- + H3O+}$
問6
(1) 水上置換で捕集されるべき気体の特徴は、水に溶けにくいというものがあることは中学理科でも習ったとおりです。よって、「水に溶けにくい」という性質を挙げるのは必須でしょう。しかし、特徴は二つ挙げなければいけませんから、もう一つ特徴を考える必要があります。
そもそも銅と希硝酸を反応させて発生する気体は一酸化窒素です。この一酸化窒素の性質を考える必要がありますが、一酸化窒素と二酸化窒素の性質を比較してみましょう。
一酸化窒素 |
二酸化窒素 |
|
製法 |
銅に希硝酸を加える |
銅に濃硝酸を加える |
色 |
無色 |
赤褐色 |
におい |
無臭(無毒) |
刺激臭(有毒) |
水に溶けるか |
水に溶けにくい |
水に溶けやすい |
その他性質 |
空気にふれるとただちに二酸化窒素となる |
常温では四酸化二窒素と平衡状態にある |
上方置換や下方置換では空気中で気体を捕集することになりますが、空気中で捕集すると上の表にも示されているとおり、一酸化窒素は二酸化窒素に変化してしまい捕集できなくなってしまいます。これを防ぐ必要があるというわけですね?
よって、「水に溶けにくい」「空気にふれるとただちに二酸化窒素となる」という2点を解答に盛り込むといいでしょう。
(2) 銅に希硝酸を加えると、上の表にもあるとおり一酸化窒素が発生します。その化学反応式は次のようになります。
$\ce{3Cu + 8HNO3 -> 3Cu(NO3)2 + 4H2O + 2NO}$
この化学反応式より、反応に関係する銅と水のモル比は3:4です。そして、銅の原子量は63.5なので、63.5gの銅は1molです。
よって、この化学反応で発生する水は、\( \displaystyle 1×\frac{4}{3} = \frac{4}{3} \)molです。$\ce{H}$の原子量は1.00,$\ce{O}$の原子量は16.0ですから、有効数字3桁で求めると、
\( \displaystyle (1×2+16)×\frac{4}{3} \) = 24.0g
答え.
問1
ハーバー・ボッシュ法
問2
条件…高圧
理由…(例)高圧になると気体の分子数が減少する方向へ平衡が移動するから。(30字)
問3
(B) $\ce{4NH3 + 5O2 -> 4NO + 6H2O}$
(E) $\ce{NH3 + 2O2 -> HNO3 + H2O}$
問4
化学式…$\ce{NH3}$
酸化数…-3
問5
(ア),(イ),(ウ)
問6
(1) (例)水に溶けにくく、空気にふれるとただちに二酸化窒素となるから。(30字)
(2) 24.0g