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この問題のポイント

中和反応でも、化学反応に関係する物質のモル比は反応式の係数の比と同じ!
それを手がかりに物質の質量なども求められる!

(1) 炭酸水素ナトリウム($\ce{NaHCO3}$)は弱酸の塩です。そして、塩酸、つまり塩化水素($\ce{HCl}$)は強酸です。よって、この2つが反応すると、強酸が弱酸の塩から$\ce{Na+}$を奪い、弱酸が生じます(弱酸の遊離)。この場合なら、炭酸($\ce{H2CO3}$)を生じます。

すると、化学反応式はこのように書けます。
$\ce{HCl + NaHCO3 -> H2CO3 + NaCl}$

その炭酸はすぐに分解してしまい、水($\ce{H2O}$)と二酸化炭素($\ce{CO2}$)を生じることになります。よって、化学反応式は最終的に、炭酸の部分が水と二酸化炭素に変わるのでこのようになります。
$\ce{HCl + NaHCO3 -> H2O + CO2 + NaCl}$

(2) そもそもこの実験は塩酸に炭酸水素ナトリウムを加えるというものでした。塩酸に炭酸水素ナトリウムを加えると中和反応が起き、(1)の化学反応式にあるとおり、二酸化炭素が発生します。二酸化炭素は気体なので、密閉していない限り大気中に出ていってしまうため、出ていったぶん質量が減少してしまいます。

しかし、炭酸水素ナトリウムをいつまでも加えつづけると、中和反応する塩酸はなくなってしまいます。すると、化学反応は起きずに炭酸水素ナトリウムだけがどんどんたまっていくことになり質量がその分増加していくこととなります。このことを簡潔にまとめて理由として説明しましょう。

ということは、交点Cのところが中和反応が終わったときだということになりますので、交点Cは中和点を示していることになります。

解答のチェックポイント

(3) 〈指針〉

「量り取った塩酸が全て反応する」ということは、グラフでの交点Cのときを指します。炭酸水素ナトリウムの質量は$m$(g)とおいてましたから、交点Cでの$m$の値を求めればいいことになります。2本のグラフの交点を求めるには、中学数学で勉強したとおり、2つのグラフの方程式を連立方程式にして解けばいいはずです。

〈考え方〉

塩酸がすべて反応したときは交点Cのときなので、交点Cの$m$の値が求める炭酸水素ナトリウムの質量である。直線Aと直線Bの2つの方程式を連立方程式にして、

\(\left\{\begin{array}{l}Y = 0.472m\\Y = m-1.11\end{array}\right.\)

この連立方程式を解くと、

\( 0.472m = m-1.11 \)
\( -0.528m = -1.11 \)
\( m = -1.11÷(-0.528) = 2.1022… ≒ 2.10 \)より、求める炭酸水素ナトリウムの質量は約2.10gである。

(4) 〈指針〉

塩化水素の物質量を求めたいのですが、今のところわかっている値は、炭酸水素ナトリウムの質量しかありません。そこで、物質量を求めるときに一番の手がかりになるのが化学反応式です。化学反応式にある物質の係数の比が、そのまま物質量の比と同じだからです。

なので、いったん炭酸水素ナトリウムの物質量を求め、化学反応式を使って塩化水素の物質量を求めていくという流れになります。

〈考え方〉

(1)で求めた化学反応式より、$\ce{HCl}$と$\ce{NaHCO3}$の係数は同じ、つまり1:1のため、物質量の比も1:1である。そこで、$\ce{NaHCO3}$の物質量を考える。

問題文にあるとおり、$\ce{NaHCO3}$の式量は84.0であり、(3)より$\ce{HCl}$が全て反応したときの炭酸水素ナトリウムは約2.10gである。この炭酸水素ナトリウムの量は2.10÷84.0 = 0.025molである。よって、$\ce{HCl}$も0.025molである。

(5) 〈指針〉

モル濃度は溶けている溶質の物質量(mol)を溶液全体の体積(L)で割れば求まります。この公式を利用して考えましょう。

〈考え方〉

塩化水素の物質量は(4)で計算したとおり0.025molである。そして、量り取った塩酸は50.0mlありました。50.0mLはLの単位に返還すると0.05Lなので、求めるモル濃度は

0.025÷0.05 = 0.50mol/L

(6) 問題文にて、「$Z$(g)から$m_0$(g)を引いた値$Y$(g)」とすることが書かれていましたから、
$Y = Z-m_0$…①という関係式が成り立ちます。

そして、$Z$の値は、塩酸に炭酸水素ナトリウムを加えて化学変化し終えた後の質量でした。ただし、交点Cまでの部分では(2)で説明したとおり、二酸化炭素という気体が発生してそれが大気中に出て行ってしまうので、質量がそのぶん軽くなります。

これより、$Z = m_0+m-M$…②
②を①に代入すると、
\( Y = (m_0+m-M)-m_0 \)
\( Y = m-M \)

そして、交点Cまでの部分では\( Y = 0.472m \)という関係式も成り立っていましたから、
\( 0.472m = m-M \)
\( M = 0.528m \)

(7) 〈指針〉

発生する気体とは二酸化炭素のことですが、その分子量を求めるには、二酸化炭素が何g発生し、それは何molにあたるのかということが必要です。何g発生したかについては、(6)で求めた式を使って考えることができます。

そして、モル数については、(4)と同じように化学反応式を使うこととなります。炭酸水素ナトリウムが何molかということを(4)で求めているので、それを利用して二酸化炭素が発生したのは何molかをつきとめれば、分子量を計算できます。

〈考え方〉

この実験で用いた$\ce{NaHCO3}$の質量は(3)より約2.10gである。よって、発生した$\ce{CO2}$の質量については、(6)で求めた式より、
0.528×2.10 = 1.1088g

そして、(1)で求めた化学反応式より、$\ce{NaHCO3}$と$\ce{CO2}$の係数は同じ、つまり1:1のため、物質量の比も1:1である。$\ce{NaHCO3}$は(4)より0.025molなので、$\ce{CO2}$も0.025mol発生したことになる。

つまり、二酸化炭素0.025molの質量が1.1088gということとなる。分子量とは1molの質量のことなので、求める分子量は、
1.1088÷0.025 = 44.352 ≒ 44.4

答え.
(1)
$\ce{HCl + NaHCO3 -> H2CO3 + NaCl}$
(2)
(例)直線Aでは塩酸と炭酸水素ナトリウムとの中和反応により二酸化炭素が発生し、それが大気中に出ていったぶんだけ質量が減少してしまう一方、直線Bでは中和反応を起こす塩酸がなくなってしまい、炭酸水素ナトリウムを加えていったぶんだけ質量が増加していくこととなるため。
交点Cの名前は中和点
(3)
2.10g
(考え方は上の解説参照)
(4)
0.025mol
(考え方は上の解説参照)
(5)
0.50mol/L
(考え方は上の解説参照)
(6)
\( M = 0.528m \)
(7)
44.4
(考え方は上の解説参照)