問題ページにもどる

この問題のポイント

実在気体が理想気体の状態からずれる原因は分子の体積と分子間力!
高温・低圧になるほど理想気体の状態に近づくことを理由とともに理解しよう!

問1 つねに気体の状態方程式に厳密にしたがう気体を理想気体といい、実際に存在する気体を実在気体といいます。ふつう気体の状態方程式は実在気体には成立しません。それは、理想気体と実在気体について下のような違いがあるからです。

 

理想気体

実在気体

気体分子の体積

ない

ある

分子間力

はたらかない

はたらく

この違いがどのように影響するかを考えていくのがこの問題の特徴です。

   ア    実在気体の体積を考える問題ですが、そもそも気体の体積とは、気体が動き回ることのできる空間がどれほどあるかということです。実在気体では、気体分子自身にも体積があります。なので、実在気体は理想気体と同じ分の動き回れる空間に加えて自分の分子がもつ体積まで抱えていることになります。

分子自身の体積について$b$とおいていますから、このことを式にあらわすと、
\( V_r = V+b \)
これは(a)の式と同じ形ですね。

   イ    実在気体の圧力を考える問題ですが、気体の圧力とは、気体分子が運動して容器の壁を押す力がどれだけあるかということです。実在気体では、気体の分子に分子間力があります。ということは、気体の分子はほかの分子から引っ張られやすくなり、容器の壁を押す力が弱くなってしまいます。

よって、実在気体の圧力は理想気体の圧力より弱いということになるので、引き算の形になっている(g)か(j)のどちらかということになります。ここからは、$a$と$V_r^2$、つまり分子間に働く引力(分子間力)と実在気体の体積がどういう関係になるかを考えることとなります。

実在気体の体積が増えると、気体の分子がその分自由に動き回ることができるので、単位体積あたりの分子数は減り、そうなると分子間力はその分小さくなります。逆に、実在気体の体積が減ると、分子が動き回る空間が小さくなって分子間の距離が近くなり、分子間力の影響はその分受けやすくなりますね?

そう考えると、体積が増えれば増えるほど、理想気体の圧力からマイナスする値は小さくなることになるので、(g)の式が適切ということになります。

問2 この問題を解くうえで、気体の状態方程式、\( PV = nRT \)は必須となります。

\( \fbox{A} \) 「理想気体1mol」という条件が最初に書かれていますから、$n$に1を代入して、
\( PV = RT \)

\( \fbox{B} \) 問1の解説にて示したとおり、実在気体の体積が小さくなるほど、分子が密集して互いの分子間の距離が近づきやすくなり、分子間力は大きくなりますね。

\( \fbox{C} \) 問1の解説にて示したとおり、分子間力の影響で分子が引っ張られやすくなるので、気体の分子たちが容器の壁を押す力が弱まります。これはつまり、圧力が小さくなっているということですね。

\( \fbox{D} \) 問1より、\( V_r = V+b \)なので、\( V = V_r-b \)
また、問1より、\( \displaystyle P_r = P-\frac{a}{V_r^2} \)なので、\( \displaystyle P = P_r+\frac{a}{V_r^2} \)

この2つを\( \fbox{A} \)で求めた\( PV = RT \)に代入すると求まります。代入した式は、
\( \displaystyle \left(P_r+\frac{a}{V_r^2}\right)(V_r-b) = RT \)

なお、このように現実の値になんらかの数値を足し引きすることで理想の数値に置き換え、それを理想の式に代入することを補正といいます。

問3 気体の温度を高くしていくと、その気体は膨張するので体積は大きくなっていきます。さっきの問1で\( \displaystyle P_r = P-\frac{a}{V_r^2} \)という式を求めましたが、体積が大きくなればなるほど、\( \displaystyle \frac{a}{V_r^2} \)の値はどんどん小さくなっていき(分母の値がどんどん大きくなるので)、無視できるほどの小さな値となっていきます。つまり、$P_r$(実在気体の圧力)は$P$(理想気体の圧力)に近づいていくこととなります。

そして、問1で求めた\( V_r = V+b \)についても、実在気体の体積がどんどん大きくなっていくと、分子自身の体積の影響は無視できるぐらいまでになっていきます。$b$が無視できるほどになれば、$V_r$(実在気体の体積)は$V$(理想気体の体積)に近い値になっているということになります。

よって、温度が高くなればなるほど、実在気体は圧力も体積も理想気体の状態に近くなり、\( \displaystyle Z = \frac{PV}{RT} \)も理想気体の値の1に近くなることになります。図1のグラフでは、$T_3$,$T_2$(K),$T_1$の順に1.0に近い曲線になっていますから、温度も$T_3$,$T_2$(K),$T_1$の順に高いということになります。

問4 さっきの問3の解説では、温度が高くなると理想気体の状態に近づくことを数式から説明していきましたが、一般的に、実在気体は高温・低圧にすることで理想気体に近づくのです。なぜかについてですが、実在気体が理想気体と異なるのは、分子の体積と分子間力の存在の せいでしたね?これの影響を小さくすれば理想気体の状態に近づくはずです。

まず、高温にすると理想気体に近づく理由ですが、高温にすると分子の熱運動のエネルギーが大きくなっていきます。熱運動のエネルギーがどんどん大きくなると分子間力が相対的に小さくなり無視できるようになるからです。

そして、低圧にすると理想気体に近づく理由ですが、周囲から加える圧力を低圧にすれば、そのぶん気体の体積は大きくなります(ふくらみやすくなるので)。気体の体積が大きくなれば、分子自身の体積が相対的に小さくなるうえ、分子間の距離も広がるようになり、分子間力が弱くなるからです。

よって、この問題の解答も、与えられた語句から考えて、高温になると分子間力の影響が小さくなること、その影響が小さくなる原因は分子の熱運動のエネルギーにあること、この2点をまとめて記述すればじゅうぶんでしょう。

問5 式(2)、つまり問2の\( \fbox{D} \)をうめて完成させた式に代入して求めます。

\( \displaystyle \left(P_r+\frac{1.41×10^5}{1^2}\right)(1-3.91×10^{-2}) = 8.31×10^3×(27+273) \) \( \displaystyle \left(P_r+\frac{1.41×10^5}{1^2}\right)(1-3.91×10^{-2}) \\ = 8.31×10^3×(27+273) \)

これを解くと、\( P_r ≒ 2.453×10^6 \)Paです。

答え.
問1
   ア   …(a)      イ   …(g)
問2
\( \fbox{A} \)…$PV$   \( \fbox{B} \)…大きく
\( \fbox{C} \)…小さく   \( \fbox{D} \)…\( \displaystyle \left(P_r+\frac{a}{V_r^2}\right)(V_r-b) \)
問3
(a)
問4(例)
高温になると分子の熱運動のエネルギーが大きくなり、分子間力の影響が減少するため。(40字)
問5
\( 2.45×10^6 \)Pa