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この問題のポイント

溶解平衡が成り立っているときは、陽イオンの濃度と陰イオンの濃度をかけた値は溶解度積と等しい!

溶解平衡とは、沈殿している固体が溶解する速度と、溶液から固体に析出する速度が等しくなり、見かけとしては溶解も析出も起こっていないように見える状態のことをいいますが、このときのイオンの濃度の積を溶解度積といいます。

この溶解度積は温度が一定ならば、つねに一定の値なので、これを使うと、溶解平衡の状態になっている飽和水溶液でのイオンの濃度を求めることができます。この問題は、まさにそれを利用して解く問題です。

(1) 硝酸銀水溶液を加えて$\ce{AgCl}$が生成されているので、$[\ce{Cl-}]$は減少している一方で、$[\ce{Ag+}]$は増加しています。そして、ついには$[\ce{Ag+}] = [\ce{Cl-}]$になりますが、このタイミングがまさに当量点というわけです。

また、
$\ce{AgCl <=> Ag+ + Cl-}$
という溶解平衡も成り立っているので、$\ce{AgCl}$の溶解度積\( K_{sp1} \)は$[\ce{Ag+}]$と$[\ce{Cl-}]$の積と等しいことになります。

ただし、当量点では、$[\ce{Ag+}] = [\ce{Cl-}]$なので、結局、
\( [\ce{Ag+}]^2 = K_{sp1} \)
\( [\ce{Ag+}]^2 = 1.8×10^{-10} \)
\( [\ce{Ag+}] = \sqrt{1.8×10^{-10}} \)
\( ∴[\ce{Ag+}] = 1.34×10^{-5} ≒ 1.3×10^{-5} \)mol/L

(2) 当量点でクロム酸銀($\ce{Ag2CrO4}$)が生成されるわけなので、試料溶液はクロム酸銀の飽和溶液になっていることになります。ということは、
$\ce{Ag2CrO4 <=> 2Ag+ + CrO4^2-}$
という溶解平衡が成り立っていることになります。

だから、$\ce{Ag2CrO4}$の溶解度積\( K_{sp2} \)は$[\ce{Ag+}]^2$と$[\ce{CrO4^2-}]$の積と等しいことになります。$\ce{Ag2CrO4}$は1つのクロム酸イオンと2つの銀イオンが結合しているので、$[\ce{Ag+}]$は2乗になるということに注意しましょう。

よって、
\( [\ce{Ag+}]^2[\ce{CrO4^2-}] = 3.6×10^{-12} \)
そして、(1)で\( [\ce{Ag+}] = 1.34×10^{-5} \)(mol/L)と求めましたから、結局、このようになります。

\( (1.34×10^{-5})^2×[\ce{CrO4^2-}] = 3.6×10^{-12} \)
\( 1.7956×10^{-10}×[\ce{CrO4^2-}] = 3.6×10^{-12} \)
\( ∴[\ce{CrO4^2-}] ≒ 2.0×10^{-2} \)mol/L

(3)(i) クロム酸銀が沈殿し始めたとき、試料溶液中のクロム酸イオンのモル濃度は、
\( \displaystyle 5.4×10^{-3}×\frac{2.0×10^{-1}}{3.0×10^{-1}} = 3.6×10^{-3} \)mol/L

(2)で説明したとおり、クロム酸銀の飽和溶液となっていて、溶解平衡が成り立っているわけなので、溶解度積との関係より、
\( [\ce{Ag+}]^2×3.6×10^{-3} = 3.6×10^{-12} \)
\( [\ce{Ag+}]^2 = 1.0×10^{-9} \)

\( \sqrt{10} \)の値が与えられているので、それが使えるような形になおすと、
\( [\ce{Ag+}]^2 = 10.0×10^{-10} \)
\( [\ce{Ag+}] = \sqrt{10.0×10^{-10}} \)
\( ∴[\ce{Ag+}] = 3.16×10^{-5} ≒ 3.2×10^{-5} \)mol/L

そして、塩化銀はすでに沈殿しているわけですから、塩化銀の飽和溶液として溶解平衡が成り立っていますから、(1)でやったような計算がここでもできます。
\( [\ce{Ag+}][\ce{Cl-}] = 1.8×10^{-10} \)より、
\( 3.16×10^{-5}×[\ce{Cl-}] = 1.8×10^{-10} \)
\( [\ce{Cl-}] = 0.5696…×10^{-5} ≒ 5.7×10^{-6} \)mol/L

(ii) 試料溶液中の$\ce{Ag+}$の物質量は、
\( 3.16×10^{-5}×3.0×10^{-1} = 9.48×10^{-6} \)mol

滴定した硝酸銀水溶液に含まれていた$\ce{Ag+}$の物質量は、
\( 1.0×10^{-3}×1.0×10^{-1} = 1.0×10^{-4} \)mol

\( 1.0×10^{-4}-9.48×10^{-6} = 9.05×10^{-5} ≒ 9.1×10^{-5} \)mol
この分が、塩化銀として沈殿した$\ce{Ag+}$の物質量に等しくなるので、これが塩化銀の物質量と等しくなります。

\( 1.0×10^{-4}-9.48×10^{-6} \)
\( = 9.05×10^{-5} ≒ 9.1×10^{-5} \)mol
この分が、塩化銀として沈殿した$\ce{Ag+}$の物質量に等しくなるので、これが塩化銀の物質量と等しくなります。

(iii) 試料溶液中の$\ce{Cl-}$の物質量は、
\( 5.7×10^{-6}×3.0×10^{-1} = 1.71×10^{-6} \)mol

一方、(ii)の問題で、沈殿した塩化銀の物質量は\( 9.05×10^{-5} \)molと求まりましたので、その塩化銀に含まれている$\ce{Cl-}$の物質量も\( 9.05×10^{-5} \)molです。

よって、硝酸銀水溶液を滴下する前の$\ce{Cl-}$のモル濃度は、
\( \displaystyle \frac{1.71×10^{-6}+9.05×10^{-5}}{2.0×10^{-1}} \)
\( = 4.6105×10^{-4} \)
\( ≒ 4.6×10^{-4} \)mol/L

これは$\ce{NaCl}$のモル濃度とも等しいので、これが答えとなります。

(4)(i) 溶液が酸性だと、クロム酸イオンが二クロム酸イオンに変化してしまいます。そうなると、クロム酸銀の沈殿が生成されなくなってしまい、当量点がわからなくなります。

(ii) 溶液が塩基性だと、クロム酸銀の沈殿が生成される前に、塩化銀だけでなく酸化銀の生成もされてしまいます。そうなると、正しい当量点が得られなくなってしまいます。

答え.
(1)
\( 1.3×10^{-5} \)mol/L
(2)
\( 2.0×10^{-2} \)mol/L
(3)
(i)
銀イオン…\( 3.2×10^{-5} \)mol/L
塩化物イオン…\( 5.7×10^{-6} \)mol/L
(ii)
\( 9.1×10^{-5} \)mol
(iii)
\( 4.6×10^{-4} \)mol/L
(4)
(i)
$\ce{2CrO4^2- + 2H+ -> Cr2O7^2- + H2O}$
(ii)
$\ce{2Ag+ + 2OH- -> Ag2O + H2O}$