問題ページにもどる

この問題のポイント

油脂とセッケンの構造と性質をおさえよう!
水素の付加と油脂の二重結合の関係も理解しよう!

問1 ①:油脂の分類を整理してみましょう。

脂肪
常温で固体の油脂。飽和脂肪酸の割合が多い($\ce{=C=C}$の割合が少ない)

脂肪油
常温で液体の油脂。不飽和脂肪酸の割合が多い($\ce{=C=C}$の割合が多い)
これに$\ce{Ni}$触媒を使って水素を付加させ、固体にしたものを硬化油という

つまり、この選択肢は硬化油についての文ということになり、正しいということになります。不飽和脂肪酸に水素を付加させると固体になるのは、不飽和脂肪酸の二重結合が単結合になり、固体になりやすくなるからです。

②:油脂は高級脂肪酸グリセリンのトリエステルです。なので、水酸化ナトリウム水溶液を加えると、けん化が起こってグリセリンと脂肪酸ナトリウムに分解されます。その脂肪酸ナトリウムを加熱して得られるのがセッケンです。

③:セッケンの大きな性質として、次の2つがあります。

  1. 水に溶かすと弱塩基性になる
    →絹などの動物せんいをいためる

  2. 硬水を混ぜ合わせると、$\ce{Ca^2+}$や$\ce{Mg^2+}$と反応して沈殿をつくるので洗浄能力が低下する
    (反応式:$\ce{2RCOO- + Ca^2+ -> (RCOO)2Ca v}$)

よって、水溶液は弱酸性を示しませんので、この文が誤りといえます。

④:セッケンの構造を理解できているかがカギになります。どのようにして汚れを落としているかというしくみとあわせて確認してみましょう。

セッケン本体は、下の図のような疎水基親水基からなる界面活性剤となっている。これにより、水の表面張力が低下し、泡立ちや浸透がしやすくなっている。

高校 化学 問題演習 セッケン本体(界面活性剤)の模式図

ちなみに、疎水基は$\ce{CH3-CH2-CH2-…-CH2}$、親水基は$\ce{COO-}$である。

高校 化学 問題演習 セッケンのミセルの図

セッケンは、水中では疎水基が内側をむいて油汚れを取り囲み、ミセルとよばれる大きなかたまりを形成し、そのまま微粒子となって水中に分散することで汚れを取り除く。これを乳化という。


よって、セッケン水に食用油を加えてよく混ぜると、疎水基が食用油の粒子を囲んでミセルを形成し、乳化します。なので、この文は正しいです。

⑤:③の説明にあるとおり、セッケンが$\ce{Ca^2+}$と反応すると沈殿をつくるので、この文も正しいです。

問2 この問題では、油脂と水素が反応をしています。油脂と水素の反応については、次のような性質があります。

二重結合を$x$個もつ油脂1molに対し、水素は$x$mol付加する

この性質を利用できるように、まず水素のmol数を確認しましょう。標準状態で6.72Lの水素が反応したんですから、
\( \displaystyle \frac{6.72}{22.4} \) = 0.3mol

実際に反応した油脂Aは\( 5.00×10^{-2} \) = 0.05molなので、水素はその6倍反応したことになります。ということは、油脂が1molあれば、水素は6mol反応することになりますから、油脂Aには二重結合は6個あるということになります。よって、$\ce{R}$部分1つには、6÷3 = 2個の二重結合があります。

脂肪酸の組成式は$\ce{R-COOH}$で、$\ce{R}$は$\ce{C_{$ n $}H_{$ 2n+1 $}}$の形になりますが、水素は二重結合のところに付加しますので、二重結合の分だけ水素は減ります。つまり、二重結合が$m$個あった場合、$\ce{R}$の部分は$\ce{C_{$ n $}H_{$ 2n+1-2m $}}$の形になります。

油脂Aは二重結合が2個あるんですから、$\ce{R}$の部分は$\ce{C_{$ n $}H_{$ 2n+1-4 $}}$の形になります。選択肢のなかで、その形になっているのは④だけです($n$ = 17を代入すると成り立っていることがわかります)。

問3
a 水酸化ナトリウム水溶液を加えて起こるのがけん化ですが、これで生成されるのはグリセリンと脂肪酸ナトリウムにすぎません。これに飽和食塩水を注ぐと、セッケンの固体が析出しますが、これを塩析といいます。実験Ⅰで生じた固体はセッケンというわけです。

b 試験管アの中身はセッケンの水溶液、試験管イの中身は合成洗剤の水溶液です。塩化カルシウム水溶液を加えたということは$\ce{Ca^2+}$と反応することになるので、セッケンは、問1の③で説明したとおり、沈殿をつくるので試験管ア内は白く濁ります。

合成洗剤についてはどうでしょうか。合成洗剤はセッケンの弱点である性質を克服する形でつくられました。なので、次のような性質があります。

  1. 水に溶かすと中性になる
    →絹などの動物せんいをいためにくい

  2. 硬水を混ぜ合わせても、沈殿をつくらない

よって、試験管イ内では特に反応は起こりませんので、均一な溶液のままとなります。つまり、正解は⑤といえます。

答え.
問1 ③   問2 ④
問3 a ⑥   b ⑤