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この問題のポイント

イオンごとにどの金属イオンと沈殿するかを覚えよう!
硫化物イオンは溶液の液性、塩基は過剰に加えたときに沈殿が溶けることに注意して覚える!

問1 それぞれの文についてどうなのかを検証してみましょう。

a アンモニア水を加えたときの反応です。塩基性の水溶液になるわけですが、塩基と反応して沈殿する金属イオンはたくさんあります。塩基との反応のポイントは、過剰に水酸化ナトリウム水溶液やアンモニア水を加えたときにどうなるかということです。

過剰に水酸化ナトリウム水溶液($\ce{NaOH}$)を加えると沈殿が溶けてなくなるもの
$\ce{Al^3+}$、$\ce{Zn^2+}$、$\ce{Sn^2+}$、$\ce{Pb^2+}$

それぞれの反応式は、
$\ce{Al(OH)3 + OH- -> [Al(OH)4]-}$
$\ce{Zn(OH)2 + 2OH- -> [Zn(OH)4]^2-}$
$\ce{Sn(OH)2 + 2OH- -> [Sn(OH)4]^2-}$
$\ce{Pb(OH)2 + 2OH- -> [Pb(OH)4]^2-}$

過剰にアンモニア水($\ce{NH3}$)を加えると沈殿が溶けてなくなるもの
$\ce{Ag+}$、$\ce{Ni^2+}$、$\ce{Cu^2+}$、$\ce{Zn^2+}$

それぞれの反応式は、
$\small{\ce{Ag2O + H2O + 4NH3 -> 2[Ag(NH3)2]+ + 2OH-}}$($\ce{Ag2O}$は褐色
$\small{\ce{Ni(OH)2 + 4NH3 -> [Ni(NH3)4]^2+ + 2OH-}}$(溶液は青紫色
$\small{\ce{Cu(OH)2 + 4NH3 -> [Cu(NH3)4]^2+ + 2OH-}}$(溶液は青色
$\small{\ce{Zn(OH)2 + 4NH3 -> [Zn(NH3)4]^2+ + 2OH-}}$

※アンモニアは水に溶かすとアンモニウムイオンと水酸化物イオンに電離します。その水酸化物イオンと銀イオンが次のような反応をするので、酸化銀(Ⅰ)を生じます。
$\ce{2Ag+ + 2OH- -> Ag2O + H2O}$

水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水両方とも、少量でも過剰でも沈殿を起こさない金属イオン
$\ce{Na+}$、$\ce{K+}$、$\ce{Ca^2+}$、$\ce{Ba^2+}$

aの文では$\ce{Al^3+}$と$\ce{Fe^3+}$の反応が問題になっていますが、上の「沈殿を起こさない金属イオン」には両方ともないので、アンモニア水を加えると沈殿します。そして、「過剰にアンモニア水を加えると沈殿が溶けてなくなるもの」にもありませんでしたから、両方とも沈殿したままになります。よって、どちらか一方だけを沈殿ということはできません。

b 希硫酸を加えたときの反応です。硫酸イオンなど、酸が関係するイオンとの反応は次のようになっています。

塩化物イオン($\ce{Cl-}$)で沈殿するもの
$\ce{Ag+}$、$\ce{Pb^2+}$

どちらも白色沈殿
$\ce{AgCl}$のほうはアンモニア水を加えると溶けるが、$\ce{PbCl2}$のほうは熱湯を加えると溶ける

硫酸イオン($\ce{SO4^2-}$)で沈殿するもの
$\ce{Ba^2+}$、$\ce{Ca^2+}$、$\ce{Pb^2+}$

炭酸イオン($\ce{CO3^2-}$)で沈殿しないもの
$\ce{Na+}$、$\ce{K+}$などのアルカリ金属イオン
※炭酸イオンではほとんどのイオンが沈殿を起こします

bの文では$\ce{Cu^2+}$と$\ce{Ba^2+}$の反応が問題になっていますが、上の「硫酸イオンで沈殿するもの」には$\ce{Ba^2+}$だけがありますから、そっちだけが沈殿します。よって、どちらか一方だけを沈殿させることは、この実験ではできます。

c 硫化水素を加えたときの反応です。硫化物イオンとの反応のポイントは、どの金属イオンでは沈殿するのかしないのかということだけではなく、水溶液が何性かということもあります。

硫化物イオン($\ce{S^2-}$)で沈殿しないもの
$\ce{K+}$、$\ce{Na+}$、$\ce{Mg^2+}$、$\ce{Ba^2+}$、$\ce{Ca^2+}$

塩基性・中性の水溶液でなら硫化物イオンで沈殿するもの
$\ce{Zn^2+}$、$\ce{Fe^2+}$($\ce{Fe^3+}$でも同じ)、$\ce{Ni^2+}$

何性の水溶液でも硫化物イオンで沈殿するもの
$\ce{Hg^2+}$、$\ce{Cu^2+}$、$\ce{Ag+}$、$\ce{Pb^2+}$、$\ce{Cd^2+}$

沈殿はどれも黒色ですが、$\ce{Zn^2+}$の沈殿は白色($\ce{ZnS}$)、$\ce{Cd^2+}$の沈殿は黄色($\ce{CdS}$)になる

cの文では$\ce{Ag+}$と$\ce{Pb^2+}$の反応が問題になっていますが、どちらも水溶液が何性であっても沈殿してしまいます。よって、どちらか一方だけを沈殿ということはできません。以上より、どちらか一方のみを沈殿させることができるのは、bだけということになります。

問2 選択肢にある金属イオンすべて($\ce{Ag+}$、$\ce{Pb^2+}$、$\ce{Cu^2+}$、$\ce{Fe^3+}$、$\ce{Ca^2+}$、$\ce{Al^3+}$)に操作Ⅰ~Ⅲを行っていったらどうなるかで考えてみましょう。操作Ⅰでは塩酸($\ce{HCl}$)を加えるわけなので、塩化物イオンと反応する$\ce{Ag+}$と$\ce{Pb^2+}$が沈殿aとなります。

操作Ⅱでは硫化水素($\ce{H2S}$)を通じるわけですが、操作Ⅰで塩酸を加えていますから、溶液は酸性になっているはずです。よって、操作Ⅱで、水溶液が何性でも硫化物イオンで沈殿する$\ce{Cu^2+}$が沈殿bとなると判断できます。

最後の操作Ⅲではアンモニア水を加えますが、残った$\ce{Fe^3+}$、$\ce{Ca^2+}$、$\ce{Al^3+}$のうち、$\ce{Ca^2+}$だけはアンモニア水で沈殿を起こしませんから、沈殿cになるのは$\ce{Fe^3+}$と$\ce{Al^3+}$だと考えられます。以上のことがすべて入っている選択肢は②となります。

問3 ①:アンモニア水を過剰に加えないと$\ce{Zn^2+}$が溶けずに沈殿してしまいます。操作aでは2種類ごとに金属イオンが分かれていますが、$\ce{Zn^2+}$が沈殿してしまうと、$\ce{Zn^2+}$、$\ce{Al^3+}$、$\ce{Fe^3+}$の3つが沈殿してしまいます。よって、この文は正しいです。

②:①の説明から、この段階では$\ce{Al^3+}$と$\ce{Fe^3+}$が沈殿となっているといえます。そして、操作bで水酸化ナトリウム水溶液を過剰に加えないと$\ce{Al^3+}$が溶けてくれず、両方とも沈殿をしたままになってしまうので、金属イオンを分けることができなくなります。この文も正しいといえます。

③:①の説明から、$\ce{Zn^2+}$と$\ce{Ba^2+}$がろ液にあるといえます。しかし、$\ce{Zn^2+}$は塩基性・中性の水溶液でないと沈殿せず、$\ce{Ba^2+}$は何性でも沈殿しません。なので、ろ液を酸性にしてしまうと、どちらも沈殿しなくなるので分けることができません。この文は誤りとなります。

④:操作bで水酸化ナトリウム水溶液を過剰に加えると沈殿アとして$\ce{Fe^3+}$を取り出すことができます。このイオンと$\ce{[Fe(CN)6]^4-}$が反応すると、濃青色沈殿が生じます。この文も正しいです。

⑤:操作bで水酸化ナトリウム水溶液を過剰に加えるとろ液イとして$\ce{Al^3+}$を取り出せて、ろ液中では$\ce{[Al(OH)4]-}$というイオンで存在しています。これに塩酸($\ce{HCl}$)を加えると、その水素イオン($\ce{H+}$)と反応して$\ce{Al(OH)3}$になります。これは両性水酸化物なので、正しいです。

⑥:③の説明から、操作cで沈殿させるべき金属イオンは$\ce{Zn^2+}$とわかります。これの沈殿は、問1の解説にあったとおり、白色ですから、この文も正しいといえます。

答え.
問1 ②   問2 ②   問3 ③