この問題のポイント
外力を受けていなければ、衝突前と衝突後で2つの物体の運動量の合計は変化しない!
力積は力×時間で求まり、運動量の変化分に等しい!
問1 力学の問題である物体が別の物体と衝突・合体・分離したときは運動量を考えることが多いです。運動量とは質量×速度で求まる値のことで、物体の運動の勢いをあらわす概念です。(たしかに物体が重いほど、そして速く動くほど、衝突したときの衝撃は大きいですね?)
「ある物体が別の物体と衝突・合体・分離したとき」と書きましたが、この状況のときには物体が2つあることになります。その2つの物体について次のような性質が成り立ちます。
質量$m$の物体が速度$v$で動き、質量$M$の物体で速度$V$で動いているのと衝突などをした結果、それぞれの速度が$v'$、$V'$になったとする。
外力(物体の集まりの外から加わる力)がはたらかないなら、次の式が成り立つ。
\( mv+MV = mv'+MV' \)
(つまり、衝突などをした前と後では、2つの物体の運動量の合計は変わらない)
これを運動量保存の法則という。
この問題では、実際に物体が衝突したわけではありませんが、投げられたボールを捕球してその衝撃でそりが動いたわけなので、衝突して物体が動いた状況と同じように考えていくこととしましょう。
そりがすべり出した状況において、関係している物体はボールとBさん、そしてBさんの乗っているそりですが、問題文にもあるとおり、そりとBさんは一体として考えてよいでしょう。
まず、一体とみなしているそりとBさんについてですが、質量はそりとBさんを合わせると$M$です。速度については、ボールを捕球する前は動いていないので0、捕球した後は$V$になりました。
一方、ボールについて、質量は$m$です。速度ですが、そりは水平方向に進んでいるので、ボールについてもそれと同じになるように水平方向の速度で考える必要があります。そりが進む直前にBさんは$θ_B$の角度でボールを捕球したので、そのときのボールの速度は\( v_B\cos{θ_B} \)です。捕球した後は、Bさんの手の中でそりといっしょに進んでいるので、速度は$V$です。
よって、捕球される前の運動量の合計は\( M×0+mv_B\cos{θ_B} \)
捕球された後の運動量の合計は\( MV+mV \)
この2つが等しいので、
\( M×0+mv_B\cos{θ_B} = MV+mV \)
\( mv_B\cos{θ_B} = (M+m)V \)
\( \displaystyle ∴V = \frac{mv_B\cos{θ_B}}{M+m} = \frac{mv_B\cos{θ_B}}{m+M} \)
問2 運動エネルギーは\( \displaystyle \frac{1}{2}mv^2 \)で求まります。2つの物体の質量は$m$と$M$なので、一体となったときの質量はわかりますが、一体となって進んだときの速度がわかりませんので、それを求める必要があります。
この問題では、2つの物体が合体したわけで外力ははたらいていないので、運動量を使って考えると、求めたい速度がわかりそうですから、それを考えていきましょう。
一体となって進んだときの速度を$V$とします。まず、小物体(質量$m$)は合体する前は速度$v$で進んでいました。静止していた物体(質量$M$)は合体する前は速度は0です。合体した後はどちらも速度は$V$になったということですから、運動量保存の法則を利用すると次の式が成り立ちます。
\( mv+M×0 = mV+MV \)
\( mv = (m+M)V \)
\( \displaystyle V = \frac{mv}{m+M} \)
これで一体となって進んだときの速度が求まりました。よって、運動エネルギーは、
\( \displaystyle \frac{1}{2}(m+M)\left(\frac{mv}{m+M}\right)^2 \)
\( \displaystyle = \frac{1}{2}(m+M)\frac{m^2v^2}{(m+M)^2} \)
\( \displaystyle = \frac{m^2v^2}{2(m+M)} = \frac{m^2v^2}{2(M+m)} \)
ちなみに、問1や問2の解説で外力という用語がありましたが、それに関連して、衝突したときに2つの物体の間ではたらく作用・反作用の力のように、物体の集まりの中で起こる力を内力といいます。
問3 一定の力をある程度の時間加えたとして、力の大きさとその力を加えた時間との積(かけ合わせた値)を力積といいます。たとえば、力の大きさを$F$とおき、その力を加えた時間を$t$とおくと、力積は$Ft$です。力積について、次のような性質が成り立ちます。
質量$m$の物体が速度$v_0$で進んでいる。そこに速度と同じ方向に$F$の大きさの力を$t$の時間だけ加えたら、物体の速度が$v$になったとすると、
\( Ft = mv-mv_0 \)
($mv$は力を加えられた後の質量×速度(=運動量)、$mv_0$は力を加えられる前の質量×速度(=運動量)なので、つまり力積は運動量の変化をあらわしている)
※証明
運動方程式は\( ma = F \)である。
加速度は、$t$の時間をかけて速度が$v_0$から$v$に変化したので、
\( \displaystyle a = \frac{v-v_0}{t} \)
これを運動方程式に代入すると、
\( \displaystyle m\frac{v-v_0}{t} = F \)
\( m(v-v_0) = Ft \)
\( ∴Ft = mv-mv_0 \)
なぜ、力積の解説を先にしたかというと、この問題ではちょうど力を加えた大きさとその力を加えた時間が問題文にあるので、これを使うと問題を解く手がかりになると考えられるからです。石(質量$m$)について、最初は人といっしょに$V_0$で滑っていたのが、人から力を加えられて速度は$v$となりました。
よって、\( F\varDelta t = mv-mV_0 \)
\( mv = F\varDelta t+mV_0 \)
\( \displaystyle v = \frac{F\varDelta t+mV_0}{m} = V_0+\frac{F}{m}\varDelta t \)
一方、人(質量$M$)のほうについては、石に$F$の力を加えると、作用・反作用の法則により、$-F$の力を石から受けます。ということは、力積を使って考えると、最初は$V_0$の速度が滑っていたのが、石に力を加えることで速度が$V$になったんですから、
\( -F\varDelta t = MV-MV_0 \)
よって、\( MV = -F\varDelta t+MV_0 \)
\( \displaystyle V = \frac{-F\varDelta t+MV_0}{M} = V_0-\frac{F}{M}\varDelta t \)
問4 石を押す前における人と石の運動エネルギーの合計は\( \displaystyle \frac{1}{2}MV_0^2+\frac{1}{2}mV_0^2 \)、つまり\( \displaystyle \frac{1}{2}(M+m)V_0^2 \)です。
一方、石を押して手が離れたときに人が静止したと問題文にありますから、石を押した後における人と石の運動エネルギーの合計は\( \displaystyle \frac{1}{2}M×0^2+\frac{1}{2}mv^2 \)、つまり\( \displaystyle \frac{1}{2}mv^2 \)です。$V_0$と$v$の2種類の文字があるので、これをどちらかに統一しましょう。
まず、問3で\( \displaystyle v = V_0+\frac{F}{m}\varDelta t \)と求まりました。そして、\( \displaystyle V = V_0-\frac{F}{M}\varDelta t \)とも求まりましたが、人は静止したので$V = 0$ですから、
\( \displaystyle 0 = V_0-\frac{F}{M}\varDelta t \)
\( \displaystyle \frac{F}{M}\varDelta t = V_0 \)
\( \displaystyle \varDelta t = \frac{M}{F}V_0 \)
これを\( \displaystyle v = V_0+\frac{F}{m}\varDelta t \)に代入すると、
\( \displaystyle v = V_0+\frac{F}{m}・\frac{M}{F}V_0 \)
\( \displaystyle v = V_0+\frac{M}{m}V_0 \)
\( \displaystyle v = \left(1+\frac{M}{m}\right)V_0 \)
よって、石を押した後には、押す前に比べて何倍になったかというと、
\( \displaystyle \frac{\displaystyle\frac{1}{2}mv^2}{\displaystyle\frac{1}{2}(M+m)V_0^2} \)
\( \displaystyle = \frac{\displaystyle\frac{1}{2}m・\left(1+\frac{M}{m}\right)^2V_0^2}{\displaystyle\frac{1}{2}(M+m)V_0^2} \)
\( \displaystyle = \frac{\displaystyle m\left(\frac{m+M}{m}\right)^2}{M+m} \)
\( \displaystyle = \frac{\displaystyle m・\frac{(M+m)^2}{m^2}}{M+m} \)
\( \displaystyle = \frac{\displaystyle \frac{1}{m}(M+m)^2}{M+m} \)
\( \displaystyle = \frac{1}{m}・(M+m) \)
\( \displaystyle = \frac{M+m}{m} \)
答え.
問1 ③ 問2 ⑤
問3 2 …⑤ 3 …② 問4 ①