この問題のポイント
水素原子がエネルギー準位をもっていることを計算式で導けるようにしよう!
その過程で量子条件と振動数条件も理解しよう!
(1) 電子が水素原子核の回りを等速円運動しているのですから、円運動の半径方向の運動方程式、つまり\( \displaystyle F = m\frac{v^2}{r} \)が成り立ちます。
そして、電子は水素原子核にある陽子に引っ張られる方向にクーロン力を受け、これが向心力となります。クーロン力の大きさは、\( \displaystyle F = k\frac{e^2}{r^2} \)と表せます。
と表せますから、以上より、求める方程式は、
\( \displaystyle m\frac{v^2}{r} = \frac{ke^2}{r^2} \)
(2) 電子の運動エネルギーと静電気力による位置エネルギーの和になります。静電気力により位置エネルギーについては、(電気量)×(電位)で求まります。電気量は問題文にあるとおり$-e$です。
そして、電位は\( \displaystyle k\frac{e}{r} \)なので、2つのエネルギーの和は、
\( \displaystyle \frac{1}{2}mv^2-\frac{ke^2}{r} \)
\( \displaystyle = \frac{ke^2}{2r}-\frac{ke^2}{r} \)
\( \displaystyle = -\frac{ke^2}{2r} \)
(3) 物質波はド・ブロイ波ともいいます。フランスの物理学者ド・ブロイが、電子などの粒子は粒子だけではなく波でもあると考え、発見しました。その物質波(ド・ブロイ波)の波長を$λ$とすると、次の式が成り立ちます。
\( \displaystyle λ = \frac{h}{mv} \)
これが求める答えとなります。
(4) (3)で電子は波の性質もあるとふれましたが、電子は水素原子核のまわりをまわっています。なので、電子の波が連続的につながって水素原子核のまわりをまわる円1周と同じ長さにならなければなりません。
水素原子核のまわりを1周する円の円周は$2πr$です。(3)で求めた物質波(ド・ブロイ波)の波長$λ$が$n$個つながった長さが$2πr$と等しくなれば、電子の波がなめらかにつながります。量子数とは、そのために必要な波の個数のことなのです。(3)で求めたものも代入すると、
\( \displaystyle 2πr = n\frac{h}{mv} \)($n$は自然数)
これが求める条件となります。そして、この式のことを量子条件といいます。
(5) (4)で求めた式を変形すると、
\( 2πrmv = nh \)
\( \displaystyle ∴v = \frac{nh}{2πrm} \)
これを(1)で求めた式に代入すると、
\( \displaystyle \frac{m}{r}・\frac{n^2h^2}{4π^2r^2m^2} = \frac{ke^2}{r^2} \)
\( \displaystyle \frac{n^2h^2}{4π^2rm} = ke^2 \)
\( 4π^2rm・ke^2 = n^2h^2 \)
\( \displaystyle ∴r = \frac{n^2h^2}{4π^2e^2mk} \)
よって、\( \displaystyle r_n = \frac{n^2h^2}{4π^2e^2mk} \)
(6) エネルギー準位とは、量子条件を満たした状態(定常状態)での電子の全エネルギーのことです。(2)で全エネルギーをあらわす式を求めたので、これを使うことができます。その式に(5)で求めた式を代入すると、
\( \displaystyle E_n = -\frac{ke^2}{2r_n} \)
\( \displaystyle = -\frac{ke^2}{2}・\frac{4π^2e^2mk}{n^2h^2} \)
\( \displaystyle = -\frac{2π^2e^4mk^2}{n^2h^2} \)
(7) 原子はふつう、エネルギーの低い状態になっていて、これを基底状態といいます。電子が光子からエネルギーを受け取るとエネルギーが高くなりますが、そのエネルギーの高い状態を励起状態といいます。逆にいえば、光子としてエネルギーを放出すれば、原子はエネルギーが低い状態へと戻ります。
高いエネルギー準位から低いエネルギー準位に遷移するとき、その差のエネルギーをもった光子が放出されますが、それが輝線スペクトルとして観測されるわけです。$E_4$での低いエネルギー準位への遷移は、
$E_4$から$E_3$
$E_4$から$E_2$
$E_4$から$E_1$
$E_3$から$E_2$
$E_3$から$E_1$
$E_2$から$E_1$
の6通りが考えられるので、観測しうる輝線スペクトルは全部で6本です。
(8) (7)の解説でふれたとおり、エネルギーをもった光子が放出されることで、低いエネルギー準位に遷移することができます。光子のもつエネルギーは$hv$ともあらわすことができます。よって、次の式が成り立つことになります。
\( E_n-E_{n'} = hv \)
この式のことを振動数条件といいます。この問題では、波長を求めなければなりませんので、その波長を$λ'$とおきます。この振動数条件だけでは、波長を求めることができません。そこで、この式を少し変形してみます。
光は波の性質も持っていますから、(光速$c$) = (振動数$v$)×(波長$λ$)という関係が成り立ちます。これを利用すると、\( \displaystyle v = \frac{c}{λ} \)となります。
これをさっきの振動数条件の式にあてはめると、$λ'$が求まりそうですね?
$E_4$は、
\( \displaystyle -\frac{2π^2e^4mk^2}{16h^2} = -\frac{π^2e^4mk^2}{8h^2} \)
$E_2$は、\( \displaystyle -\frac{2π^2e^4mk^2}{4h^2} \)なので、
\( \displaystyle E_4-E_2 = \frac{3π^2e^4mk^2}{8h^2} \)です。
ゆえに、\( \displaystyle \frac{3π^2e^4mk^2}{8h^2} = \frac{hc}{λ'} \)
\( 3π^2e^4mk^2・λ' = 8h^3c \)
\( \displaystyle ∴λ' = \frac{8h^3c}{3π^2e^4mk^2} \)
答え.
(1) \( \displaystyle m\frac{v^2}{r} = \frac{ke^2}{r^2} \)
(2) \( \displaystyle -\frac{ke^2}{2r} \)
(3) \( \displaystyle \frac{h}{mv} \)
(4) \( \displaystyle 2πr = n\frac{h}{mv} \)
(5) \( \displaystyle r_n = \frac{n^2h^2}{4π^2e^2mk} \)
(6) \( \displaystyle E_n = -\frac{2π^2e^4mk^2}{n^2h^2} \)
(7) 6本
(8) \( \displaystyle \frac{8h^3c}{3π^2e^4mk^2} \)